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発表要旨

パネル・ディスカッション1:企業のコア・コンピタンスを活かした健康改善への取り組み


企業のナレッジを医薬品のサプライチェーンに活かす  コカ・コーラの事例

クリストフ・ベン 世界エイズ・結核・マラリア対策基金渉外局長

世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)は、2002年の設立以来、企業や市民社会との連携(PPP)を柔軟かつ積極的に進め、リソースを動員してきた。企業とのパートナーシップは、武田薬品やゲイツ財団のような資金提供、シェル石油のような途上国での感染症対策プロジェクトの実施者としての連携、コカ・コーラやソニーのようにサービスや知見の提供など多岐に亘る。その中で、コカ・コーラ カンパニーとの連携で実施した、ラストマイルプロジェクトを紹介したい(ラストマイルとは、「サービスが顧客に届くまでの最後の区間」の意)。これは、コカ・コーラが長年培ってきた物流ノウハウを、タンザニア全体の医薬品の調達と供給を統括している医薬品供給庁(Medical Store Department: MSD)に移転することで、医薬品が全国に遅滞なく届けられるようになることを目指したものである。2010年に開始されたこのプロジェクトを通じて、医薬品供給庁の職員の能力が強化され、より効率的なサプライチェーンの確立やコスト削減をはかることができた。これにより、それまで500箇所だった供給先クリニックが5000箇所に増え、医薬品の在庫の補充までの時間が最大2/3短縮するなど、医薬品へのアクセスが格段に改善された。一方、コカ・コーラにとっても、地域への貢献のみならず、自社ブランドの強化、新しい顧客の獲得、従業員の士気の向上、現地のボトリング会社との関係強化、現地政府からの評価につながるなどのメリットがあった。また、世界基金がタンザニアで支援する保健プログラムにも多大な効果があった。MSDの機能が向上したことにより、資金の需要予測が容易になったことが、感染症対策プログラムが計画的に行われることにつながり、医薬品の在庫不足によって治療を中断せざるを得なくなるリスクが減少した。

※上映したコカ・コーラ事例のビデオ(日本語字幕)はYouTubeでご覧いただけます。

低所得層の健康改善をはかる民間投資ファンド  アフリカ・ヘルス・ファンドの事例

シャキル・メラーリ アブラジ・グループ パートナー(ケニア)

アブラジ・グループは、アジア・アフリカ・中南米を中心に、36ヶ所にオフィスを持ち、50カ国で200件以上の投資を行っている。サブサハラ・アフリカにおいては、20年以上にわたり、金融や工業のみならず、エネルギーやIT、保健医療など様々な分野を対象にしてきた。サブサハラ・アフリカでは、民間セクター(私立病院/クリニック、NGO、薬局、保険会社等)が保健医療サービスの50%を提供しているとも言われ、大きな役割を果たしている。健康へのニーズが急速に高まっているアフリカにおいて、あらゆる所得層をターゲットにしている民間セクターへの投資はサービスへのアクセス改善や政府の財政負担減といった保健医療の課題を解決する鍵ともいえる。国際金融公社(IFC)やゲイツ財団、アフリカ開発銀行等によって2009年に共同で設立された「アフリカ・ヘルス・ファンド」は、保健医療分野において民間セクターがより充実し成長することをターゲットにした1億ドル規模のプライベート・エクイティ・ファンドで、保健医療サービス、医薬品、医療機器、診療等を対象に、現在8社へ投資を行っている。例えば、ケニアの医療機器メーカーRevital Healthcare社に対して、275万ドルを投資した。特にアフリカにおいては、使い捨て注射器供給は感染症予防の観点から非常に重要であり、同社では、この投資によって使い捨て注射器の製造拡大を見込んでいる。アフリカの保健医療分野に投資してリターンはあるのかと聞かれるが、投資が成功かという点で見ると、これまでに投資した中小企業は今のところ順調に成長し、収益を伸ばしている。このファンドのユニークな点は、投資している中小企業のパフォーマンスを、金融面だけでなく、貧困層に資するビジネスを育成できているか、という観点からも測定するところにある。顧客の50%が年収3,000ドル以下の貧困層でなければならないという条件は8社中7社が、年収1,000ドル以下が15%という条件は全社がクリアしている。今後は、アフリカに既にプレゼンスがある日本の企業のみならず、これからアフリカに進出したいと考えている日本企業ともパートナーを組んでいければと考える。

地域の人々の健康に関する意識啓発

アイビー・アペア・オウス セイラス石油CEO(ガーナ)

セイラス石油は、石油等の輸入、貯蔵、給油を行うガーナの企業で、120名を超える従業員を抱える。TemaとTakoradiの二箇所にターミナルを持ち、これらの地域では、マラリア、結核、眼疾患が主な健康問題とされている。サービスを提供する企業として、従業員を含むコミュニティの健康は重要な課題であると認識しており、セイラス石油はソフト・ハード両面からコミュニティの健康増進を支援している。ハード面では、世界基金への資金拠出に加え、種々の保健医療プログラムや研究プロジェクトへの寄付、廃棄物コンテナの供与、マラリア予防のための排水溝の整備等を行っており、ソフト面では、地域住民への健康教育や廃棄物処理の監督(これは雇用創出にも繋がっている)、健康意識向上キャンペーンの開催などを行っている。特にソフト面での支援では、コミュニティリーダーとの対話を通じて人々の声を吸い上げ、地域のニーズに沿った内容になるよう努めている。また州病院での献血キャンペーンでは、政府や他の工業関係者と協力して実施するなど、健康への取り組みにはパートナーシップが重要であると感じる。今や保健医療分野は公的セクターだけの職務ではなく、民間セクターもこれまで以上に参画すべきと考える。

パネル・ディスカッション2:保健医療テクノロジーの開発と普及に向けた官民パートナーシップ


アフリカの栄養改善

ビルギット・ポーニアトフスキー グローバル・アライアンス(GAIN)投資・パートナーシップ部長
佐次本 英行 DSMニュートリションジャパン株式会社ヒューマンニュートリション本部取締役本部長

グローバル・アライアンス (Global Alliance for Improved Nutrition (GAIN)) は2002年にスイスを本拠地に設立されたNPO団体である。アジア、中東、南米、アフリカにおける栄養失調ハイリスクとされる低所得者層の栄養改善実現に向け、ビタミン、ミネラルのサプリメントや、微量栄養価の高い主食、調味料、その他の食品を提供している。GAINの栄養改善プロジェクトにより、これまで30か国以上、女性と子どもを中心とする7億8千9百万人に微量栄養価の高い食品を届けきた実績を持ち、2015年までに10億人達成を目標にしている。またGAINは政府、NGO、大学機関や600以上の民間企業とネットワークを持っていることが大きな特徴の一つである。この広いネットワークは、GAINとパートナーシップを結ぶパートナー間の連携にも大いに役立っている。ここでGAINとパートナーシップを組んでいるDSM社(本社オランダ)を紹介する。DSM社は、ライフサイエンス・マテリアルサイエンスのグローバル企業であり、その部門の一つであるDSMニュートリショナルプロダクツは食品・医療・動物飼料向けのビタミンやカロテノイド等の微量栄養素分野におけるトップメーカーとして世界的規模で事業を展開している。中でも、ヒューマンニュートリション分野では、栄養失調問題が特に深刻なアフリカでは、ケニア低所得者層を対象に現地の乳製品会社と連携して栄養素の豊富な乳製品の生産販売を通して持続可能なビジネスモデル構築の実現を目指している。既に構築されたGAINの各国政府とアフリカ現地サプライチェーンとのネットワークにより、DSMとケニアの政府関係者、乳業関係者等の中小企業とのスムーズな交渉や強力な連携づくりが可能となっている。

日本の医薬品研究開発の知見・技術を活かす

マーガレット・マックグリン 国際エイズワクチン推進構想(IAVI) プレジデント兼CEO
長谷川 護 ディナベック株式会社(DNAVEC)代表取締役社長

米国NPO団体国際エイズワクチン推進構造(IAVI)と日本企業のディナベック株式会社(DNAVEC)は、HIV感染予防と、より効果的なエイズワクチンの研究開発と世界中へ普及を共に進めている。IAVIは1996年の設立以来、25カ国のパートナーと共にエイズワクチン候補の研究開発を展開し、アフリカやインドにおける草の根レベルでのエイズワクチンに関する知識の普及活動、エイズワクチンに関する国際的な政策分析やアドボカシー活動を行っている。これらの活動は各国政府、民間企業や財団からの支援と個人寄付によって支えられている。また、アフリカの臨床研究施設とネットワークを構築したことにより、アフリカで治験を行い、世界で最も感染者の多いアフリカ人口を対象にワクチンの有効性を確認することが可能となったのである。さらに、国内外の多くの学術機関、政府、産業界とネットワークを持ち、エイズワクチン開発に不可欠な研究資金の確保と臨床試験を行うための橋渡しの役割を果たしている。これはPDP(医薬品開発パートナーシップ)と呼ばれ、このモデルの先駆けとなったIAVI は日本企業のディナベック株式会社(DNAVEC)とパートナーシップを結んでいる。2003年設立のDNAVECはバイオ先端学問と技術を専門に、独自の遺伝子導入技術等をベースに安全性・有効性の高いエイズ予防ワクチンの開発研究を行っている。日本の国立感染症研究所、東京大学医科学研究所と共同してセンダイウイルスベクターを用いた高い専門技術によりエイズワクチンを開発し、サルモデル実験によって他の遺伝子ワクチンに比べて高い有効性が得られた。霊長類の粘膜免疫でエイズウイルスの増殖阻止に成功したのは世界初である。このようなな事業が可能になった背景には、ワクチンを安全と迅速に開発するという目標に向けて、世界で事業展開するIAVIと日本政府、世界銀行が資金提供と技術協力をし、DNAVECが高度な専門技術と知見を提供して研究開発を行うという、NPO、政府、民間企業のパートナーシップがある。これは、アフリカの健康増進のために日本の医療品研究開発の知見・技術を活かす特筆すべき例である。

途上国向け医薬品開発

小沼 士郎 外務省国際協力局国際保健政策室長、グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)理事

2012年にグローバルヘルス技術振興基金(Global Health Innovative Technology Fund (GHIT Fund))が設立され、日本発で国際保健分野におけるパートナーシップを奨励する取り組みが始まっている。日本の製薬企業における新薬開発数は世界3位と高い技術を誇るが、開発途上国向けの医薬品開発は進んでいるとは言えない。なぜなら、医薬品開発に長い時間と多額のコストがかかること、その上、発展途上国特有の疾患に対する新薬の研究開発においては、一般的な市場原理が働かないことがあげられる。そこで、GHIT Fundは、日本や海外の研究機関との連携や助成金交付を通じ、開発途上国向けの医薬品の研究開発、製品化の促進を目指している。日本政府、民間企業、ビル&メリンダ・ゲイツ財団が共同設立したGHIT Fundは開発途上国向けの新薬開発を支援する日本初の官民パートナーシップである。国境やセクターの垣根を越えたパートナーシップを奨励し、途上国への日本の医薬品、知見や技術の提供を実現し、国際保健に貢献していくことを目指す。共通の目標に向かい国を越えたパートナーシップを促進することによって、効率的に国際保健課題を解決していくことが重要と考える。医薬品開発を促進することによって、経済成長期にある開発途上国における保健医療分野の基盤整備に貢献することは、開発途上国と日本の双方の中長期的な発展につながるだろう。


タイトル写真提供:世界エイズ・結核・マラリア対策基金
photo credit: © the Global Fund