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【開催報告】
2013年4月30日(火)19:00−21:00 会場:日本創生ビレッジ
アフリカ・ビジネスと現地社会
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2013年6月に横浜で第5回アフリカ開発会議(TICAD V)が開催される機会に、日本医療政策機構、日本国際交流センター、日本創生ビレッジでは、月例の連続講座を開催しています。

4月30日に開催された第4回の講座は、是永和夫 三菱商事株式会社上席顧問と、牧野久美子 ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センター研究員にご登壇いただき、アフリカ・ビジネスと現地社会をテーマにそれぞれ民間企業と研究者の立場から、ご自身の経験を交えてお話いただきました。

是永和夫
三菱商事株式会社上席顧問、同社元理事兼アフリカ大陸責任者(アフリカCRO)、
日韓経済協会専務理事

アフリカ駐在歴は延べ14年に亘り、その間にアフリカ23カ国を訪問した。現在、三菱商事は、資源投資、コミュニティ開発、政府開発援助(ODA)、企業の社会的責任(CSR)を4本柱に、アフリカの様々な国で事業を展開している。現状として、アフリカの市場としてのリスクを完全には否定できないが、例えばクロムのシェアを考えるとアフリカは世界の75%を占めており、アフリカに進出しないという選択は考えられない。アフリカでのCSR活動のきっかけとなったのは、2001年に訪問したモザンビークで三菱商事が25%を出資するモザールアルミ製錬事業の幅広いCSR活動を目の当たりにしたことであった。健全な事業経営には、従業員のみならず、その家族や家族の住む地域全体への配慮が前提であり、特に資源開発会社は人の住んでいない地域に設立することが多く、会社設立と共に生まれた周辺の地域社会とともに歩む姿勢、軒先を借りていることへの感謝を示すことは不可欠であると感じた。その後モザンビークで石炭開発に携わった際、対象地域に残る地雷が問題となった。日本政府の協力で、ODAにより地雷除去機が導入され、オペレーターがJICAの研修を受け、作業員の給料や燃料代などの必要経費を民間のCSR予算で賄うという官民連携のもとに除去プロジェクトが実施された。また三菱商事は南アフリカを始め、アフリカ大陸の各地でHIV/AIDS対策プロジェクト、母子病院サポート等の健康改善に関連する社会貢献活動を行っており、中には国際協力銀行からの資金援助を得て、官民連携の先駆けとなったプロジェクトもある。官民が補完し合いながら連携することで相乗効果が生まれ、総合的なコミュニティの開発に結びついている。


牧野久美子
ジェトロ・アジア経済研究所 地域研究センター アフリカ研究グループ 研究員

自分が南アフリカの社会保障制度に関心を持つようになったのは、南アフリカ(南ア)のケープタウン大学に研究留学をした際、HIV陽性者らによるエイズ治療薬を求める運動と、全ての人々に一律定額の現金を定期的に給付するというベーシックインカムの支給を求める運動を目にしたことがきっかけであった。HIV感染者数が約540万人と世界最多の南アでは、抗レトロウィルス薬(ARV)へのアクセスや治療において国内での格差が大きく、陽性者によるARVを求める運動によって公的医療機関でもARVが利用可能となったという経緯がある。南アは所得保障制度が整備されてきており、貧困軽減に役立っているなどの評価がある反面、保健医療システムとは分断された状態であり、矛盾が生じている。南アでは、ARVを安価に利用できるようにした保健政策と、エイズを発症したHIV陽性者が障害者手当を受けられる所得保障政策という2つの側面からHIV陽性者を支えているが、治療によって陽性者の健康状態が回復すると障害者手当が打ち切られることから、治療をやめてしまう人も出てくるといった課題もある。近年、ラテンアメリカで始まった条件付きの現金給付による所得保障がアフリカにも普及している。南アでは、ベーシックインカムは結局実現しなかったが、条件付きではない児童手当の拡充につながった。この児童手当によって、子どもの健康が改善されたとの報告があり、南アの事例を通じて、条件を付けない現金給付でも保健指標が改善されるという可能性が見えてくる。




会場との質疑応答では、アフリカでの事業展開と継続に関して、現地従業員の教育や管理、離職などについて質問が続いた他、ベーシックインカムという発想とその財源にも関心が集まりました。失業率の高いアフリカにおいては、所得保障制度等による公的な支援と、企業のCSR活動による地域社会への支援が互いに補完し合うことが重要であるということが意見交換を通じて共有されました。

本講座は、起業家マインドを持つ若手中堅の皆様にアフリカのヘルスケアについて理解を深めていただくことを目的としているため、起業家の国際的な活動も支援する「日本創生ビレッジ(EGG JAPAN)」とのパートナーシップで実施しています。講座当日は、日本創生ビレッジを運営する三菱地所株式会社街ブランド企画部東京ビジネス開発支援室の相川雅人 副室長より、日本創生ビレッジの趣旨と概要についてもご説明いただきました。

相川雅人氏
三菱地所株式会社街ブランド企画部
東京ビジネス開発支援室副室長
会場の様子

スピーカー・モデレーター略歴

是永 和夫

三菱商事株式会社上席顧問、同社元理事兼アフリカ大陸責任者(アフリカCRO)、日韓経済協会専務理事
1971年、成蹊大学法学部政治学科卒業後、三菱商事株式会社入社。ヌメア駐在員首席、ヨハネスブルク支店金属部長(1990年5月〜)、同支店支店長代行(94年〜)、ニッケル合金鉄部部長代行(96年2月〜)、メタル事業部部長代行(98年4月〜)、秘書室長(99年4月〜)、ヨハネスブルク支店長(2001年4月〜、08年4月より理事アフリカCRO [Chief Regional Officer] 兼任)、コーポレート担当役員(地域戦略)付上席顧問(09年7月〜)を経て、10年6月より日韓経済協会専務理事、日韓産業技術協力財団専務理事を務める。三菱商事アフリカCROとして、当時14の拠点を監督、2003年から南アにおいて三菱商事が51%を保有するハーニックフェロクロム社の取締役会長を兼任。その他、モザンビークにおいてBHPビリトン社、南ア開発公社等と共同で経営するモザールアルミプロジェクトの取締役、南ア日本商工会議所会頭等を歴任。

牧野 久美子

ジェトロ・アジア経済研究所 地域研究センター アフリカ研究グループ 研究員
1996年、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了後、アジア経済研究所入所。1997年よりアフリカ地域研究業務に従事、主に南部アフリカ地域の社会政策や社会運動について研究を行う。2001〜03年、ケープタウン大学客員研究員として南アフリカ共和国に滞在。主要著作に『南アフリカの経済社会変容』(共編著、アジア経済研究所、2013年)、「社会的保護のための現金給付—ラテンアメリカとアフリカにおける実例と今後の課題」(宇佐見耕一編『新興国におけるベーシックインカムをめぐる議論』調査研究報告書、アジア経済研究所、2012年所収)、「エイズ政策にみる南アフリカの国家と市民社会」(川端正久・落合雄彦編『アフリカ国家を再考する』晃洋書房、2006年所収)、『エイズ政策の転換とアフリカ諸国の現状—包括的アプローチに向けて』(共編著、アジ研トピックレポートNo.52、アジア経済研究所、2005年)、など。

渋澤 健

公益財団法人日本国際交流センター理事長
テキサス大学化学工学部卒業。1984年に(財)日本国際交流センター入職、1987年にUCLA大学経営大学院にてMBAを取得し、JPモルガン、ゴールドマン・サックスなど米系金融機関、大手ヘッジファンドのムーア・キャピタル・マネジメントを経て、2001年シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。2007年コモンズ株式会社(現コモンズ投信)を創業し、2008年会長に就任、現在に至る。2010年より日本国際交流センター評議員、2012年3月理事、5月に理事長に就任。「日本資本主義の父」と言われる渋沢栄一の5代目の孫にあたり、「論語と算盤」の提唱を現代に問いかけ、21世紀における資本主義や社会の持続性、経済活動と公益活動を両輪とする民間の力の重要性などを説く講演・執筆活動に従事する。2004年より経済同友会幹事、また、渋沢栄一記念財団理事など多くの非営利組織の理事・評議員を務める。著書に、『渋沢栄一 100の訓言』(日本経済新聞出版社・2010年)、『日本再起動』(東洋経済新報社・2011年)等がある。1961年生まれ。


タイトル写真提供:世界エイズ・結核・マラリア対策基金
photo credit: © the Global Fund/ John Rae