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【開催報告】
2013年5月14日(火)19:00−21:00 会場:日本創生ビレッジ
アフリカとの国を越えたパートナーシップ
〜栄養改善への取り組み
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2013年6月に横浜で第5回アフリカ開発会議(TICAD V)が開催される機会に、日本医療政策機構、日本国際交流センター、日本創生ビレッジでは、月例の連続講座を開催しています。

5月14日に開催された第5回の講座は、力丸徹 独立行政法人 国際協力機構 国際協力専門員(栄養・保健)と、取出恭彦 味の素株式会社 研究開発企画部 国際栄養担当専任部長にご登壇いただき、「アフリカとの国を越えたパートナーシップ〜栄養改善への取り組み」をテーマにそれぞれ民間企業と政府開発援助(ODA)実施機関の立場から、ご自身の経験を交えてお話いただきました。

力丸徹
独立行政法人 国際協力機構 国際協力専門員(栄養・保健)

世界のhunger(最低必要エネルギー摂取量に満たない)人口割合は、アフリカに集中している。サブサハラでは、食料不足が大きな社会問題となっている。しかし、各国のhungerの発生率と子どもの低体重の発生率の相関を調べたところ、全く関係性がないことも分かった。これは国の食料不足の有無と低栄養発生率の関連は小さいことを意味している。アフリカにおける低栄養の要因は、食料不足が背景にはあるとしても、妊娠期の低栄養、不適切な母乳育児、不適切な乳児食、下痢やその他の感染症が直接的な要因となっていることは明白である。

これまで世界会議やサミットで栄養問題が取り上げられてきたが、十分な成果を上げるには至らなかった。2000年代に入り、コペンハーゲンコンセンサスにおいて、経済的視点から、栄養の問題が優先的に取り組むべき地球規模の課題として取り上げられた。また、2008年にはランセット誌に母子低栄養の課題に対し、科学的根拠のある栄養介入手法が発表され、同時に国際的な栄養システムのリーダーシップやリソースの欠如が指摘された。これを受けて2010年にScaling Up Nutrition (SUN)(栄養不良対策の拡大)会議が世界銀行のイニシャティブで開催され、1000Days(妊娠期間から2歳まで)を最優先期間とし費用対効果の高い13項目の栄養介入とマルチセクトラルなアプローチを強化する必要性が宣言された。このような一連の動きが奏功し、多くの途上国とともに世界各国のドナー、組織、民間、学術機関が、栄養不良対策への取り組みを真剣に実行しようとする機運が高まってきている。

アフリカの栄養改善に向けて日本に期待されることは、乳幼児、妊産婦、学童、そして一般的集団に対して、これまで十分に取り組みを実施してこなかった発育不良への対策、微量栄養素欠乏対策、感染症対策との連携協調などを積極的に実施することである。そのアプローチの方法として、コミュニティ活動強化、保健栄養サービス強化、人材育成、戦略・制度・手法開発の強化、マルチセクトラル・アプローチ等の切り口が考えられる。また、今後日本が強化すべきところは、栄養改善手法開発、日本特有の技術の応用、そしてマルチセクトラル・アプローチである。食料確保が困難な状況下で可能な対応として、栄養利用効率向上のための技術革新、サプリメンテーションの応用、強化食品の普及、効果的な食生活改善手法の開発、世帯食料安全保障の向上などが考えられる。現在までに培われたノウハウに加えて新しい技術改革で得た手法を導入し、アフリカの栄養改善により一層、日本が貢献していくことが求められている。


取出恭彦
味の素株式会社 研究開発企画部 国際栄養担当専任部長

味の素グループがアフリカで栄養改善に取り組む背景として、アフリカはインドや中国と比較すると、総人口や経済規模は同程度だが、人口増加率が高く、経済成長が開始していることが特徴である。国連ミレニアム開発目標において、乳幼児死亡率は現在達成が困難とされている目標の一つで、特に栄養不良が大きな原因である。そのような中、世界ではScaling Up Nutritionの中で、First 1000 days(妊娠期から2歳までの期間)に集中的に資源を投入することの重要性が指摘されているため、私たちは現在ガーナで離乳期の栄養改善を行っている。味の素のモットーは"Eat Well, Live Well"であり、食を通じた栄養改善は私たちのミッションの一つである。私たちの強みである食品科学及びアミノ酸栄養の組み合わせによって、味の素ならではの栄養改善という貢献をしたいと考えている。社会課題に対してビジネスを通じて解決するソーシャルビジネスを作り上げていきたいと考えている。

ガーナで栄養改善プロジェクト(離乳期用栄養強化食品の開発)を行った理由として、国連機関、国際NGOなど様々な社会セクターが、ガーナを西アフリカの拠点として活動しており、それらとの連携によるソーシャルビジネスのモデルづくりには最適の場所であると考えたからである。ガーナが抱える栄養不足の課題のうち、生後6ヶ月〜24ヶ月の離乳期に低栄養による成長遅延という課題に着目し、2009年に、味の素、ガーナ大学、INF(International Nutrition Foundation)の3者で協働プロジェクトの一環で、離乳食"KOKO Plus"を開発した。WHO等の栄養必要量推奨値を満たすような原料組成を計算した"KOKO Plus"は、1袋で1日1人当たりの必要な栄養を満たす補助食品となっている。

今後の展望であるが、NGOなど種々の社会セクターと、栄養改善という目的を共有したWin-Winの関係を築き、栄養不足という社会課題解決を持続可能なビジネスを通して実現できることを証明したい。ソーシャルビジネスの展開が直接、間接にメインストリームのビジネス展開に貢献できる事を示し、ガーナでの成功例を築き、他の途上国へ横展開を進めていきたいと考える。




会場との質疑応答では、アフリカでの現地企業と連携して生産を行う上で、品質管理の基準や法規制などについて質問が続き、現地の法解釈を話し合い確認しながら実施する必要性が述べられました。また、日本が世界的な栄養分野の問題において活動する上での課題や強みについても関心が集まり、今後、日本が積極的に本分野に介入し、農業も含め、マルチセクトラルに活動していく重要性も共有されました。

本講座は、起業家マインドを持つ若手中堅の皆様にアフリカのヘルスケアについて理解を深めていただくことを目的としているため、起業家の国際的な活動も支援する「日本創生ビレッジ(EGG JAPAN)」とのパートナーシップで実施しています。講座当日は、三菱地所株式会社 街ブランド企画部 東京ビジネス開発支援室 及川 静香 氏から、日本創生ビレッジは、事業開発支援、ビジネスパートナー支援を行い、日本と世界をつなぐイノベーションセンターであることをご説明いただきました。


スピーカー・モデレーター略歴

力丸 徹

独立行政法人 国際協力機構 国際協力専門員(栄養・保健)
徳島大学大学院(保健学博士)修了後、東京都老人総合研究所を経て、JICA国際協力専門員となる。ガーナ大学野口記念医学研究所、タンザニア国食料栄養センター、ネパール保健省栄養部などで研究・政策アドバイザー、カルフォルニア大学デービス校国際栄養学プログラムの客員研究員、イエメンでは母子栄養プロジェクトのチーフアドバイザーを勤めた。昭和女子大学大学院客員教授。

取出 恭彦

味の素株式会社 研究開発企画部 国際栄養担当専任部長
1981年.東京大学農学系大学院農芸化学修士課程修了。味の素(株)入社。飼料用アミノ酸の開発、TS、販売、また、研究所における新製品開発等に従事。その間、中国、シリア等でのリジンによる栄養改善試験実施を担当。1986年〜1992年、タイ味の素出向。2005年~2009年ヨーロッパ味の素(フランス)に出向し、欧州におけるR&Dを総括。2009年より本社研究開発企画部に所属し、開発途上国における栄養改善プロジェクトを推進。農学博士(東京大学)。

渋澤 健

公益財団法人日本国際交流センター理事長
テキサス大学化学工学部卒業。1984年に(財)日本国際交流センター入職、1987年にUCLA大学経営大学院にてMBAを取得し、JPモルガン、ゴールドマン・サックスなど米系金融機関、大手ヘッジファンドのムーア・キャピタル・マネジメントを経て、2001年シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。2007年コモンズ株式会社(現コモンズ投信)を創業し、2008年会長に就任、現在に至る。2010年より日本国際交流センター評議員、2012年3月理事、5月に理事長に就任。「日本資本主義の父」と言われる渋沢栄一の5代目の孫にあたり、「論語と算盤」の提唱を現代に問いかけ、21世紀における資本主義や社会の持続性、経済活動と公益活動を両輪とする民間の力の重要性などを説く講演・執筆活動に従事する。2004年より経済同友会幹事、また、渋沢栄一記念財団理事など多くの非営利組織の理事・評議員を務める。著書に、『渋沢栄一 100の訓言』(日本経済新聞出版社・2010年)、『日本再起動』(東洋経済新報社・2011年)等がある。1961年生まれ。


タイトル写真提供:世界エイズ・結核・マラリア対策基金
photo credit: © the Global Fund/ John Rae