日本経団連主催
世界基金フィーチャム事務局長と日本の経済界関係者との朝食懇談会
2004年12月9日
| 世界エイズ・結核・マラリア対策基金のフィーチャム事務局長の来日にあたり、 日本経団連の主催で、日本の経済界の方々との懇談会が開催されました。世界基 金支援日本委員会の委員も務めていただいている立石信雄オムロン相談役(日本経団連国際労働 委員長)をはじめ、企業の人事やCSR(企業の社会的責任)担当の経営幹部約30名のご参加をいただき、企業経営の観点から三大感染症への対応 について、以下のように活発な議論がなされました。 |
| 立石信雄 (オムロン相談役・日本経団連国際労働委員長) |
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世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)の事務局長リチャード・フィーチャム氏と渉外担当ディレクターのクリストフ・ベン氏をお迎えして経団連でお話を伺う機会をもてたことを大変嬉しく思う。世界基金は2002年に作られた組織で、途上国のエイズなどの予防と治療プロジェクトを資金面から支援している団体である。各国の支援のもとに感染症対策の資金を集めており、日本政府もこれに積極的に協力し、すでに2億6千万ドルの拠出を表明している。日本国内でも、世界基金に対する理解促進をはかるため、2004年6月に日本国際交流センターが中心となり世界基金支援日本委員会が発足した。この委員会は、森喜朗前首相を会長とし、経済界からは、全日空の野村会長、キッコーマンの茂木会長、そして私がメンバーに加わって、活動をまさに始めようとしているところである。 世界的にエイズの問題は大変深刻化している。サハラ以南のアフリカに加え、今後は中国やインドで感染の拡大が懸念されている。日本国内でのHIV感染は現在6000人と諸外国に比べると少ないものの、若い世代を中心に拡大しており、2010年には約5万人に増えるという推計もある。一方、海外における感染のリスクも高まっている。日本人駐在員などが多数派遣されている国、例えば中国では、現在84万人の感染者がいるとされているが、2010年には1000万人を越えるとの予想がある。 12月1日の世界エイズデーに関連して様々な報道がなされ、社会的関心は高まっているが、企業経営の観点からの認識は日本ではまだ高まっていない。これは、国内においてエイズの感染拡大の問題がまだ顕在化していないことが原因であろう。ただ、今後のアジア諸国での蔓延の可能性をふまえて、アジア等進出国での対策を検討することが企業の課題となってくる。本日は、アジアにおける感染の現状と、企業への影響と対策についてお話をうかがい、率直な意見交換を行いたい。 |
| リチャード・フィーチャム世界基金事務局長 |
このような機会に日本の経済界の皆様にお話できることは大変光栄である。日本は世界基金の生みの親と言っても良いだろう。なぜなら、世界基金という発想が生まれたのは、2000年のG8九州沖縄サミットだったからである。基金の設立第一日目から日本の皆様には大変なご支援をいただき、心から感謝している。今日は三つのことについてお話したい。まずマラリア、結核、エイズという三つの疾病について、そして世界基金の最新動向、最後にエイズとの闘いにおける経済界と労働界の役割について述べたい。
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| クリストフ・ベン世界基金渉外担当ディレクター |
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大手の企業がエイズに関してどのような活動をしているか、ドイツの自動車メーカー、ハイテク産業のダイムラー・クライスラー社を例にご説明したい。ダイムラー・クライスラー社は大手の多国籍企業として世界各地に生産拠点を持っているが、エイズの蔓延している南アフリカ、ブラジルにも拠点がある。同社は最近、エイズがこの2カ国の生産に深刻な影響を及ぼしていることに気付いた。従業員がエイズ・ウィルスに感染し次々に体調を崩し、医療保健関連のコストがかかりすぎるという認識が生まれてきた。休職者の代替として他の人を雇い再教育しなければならないという人事上のコストがかかる。事実上、一つのポストに対して3人を同時に訓練しておかないと、いずれはエイズで働けなくなってしまう、ということだった。 そこで従業員を対象に、エイズ予防と治療のプログラムを大規模に開始しようということに決まった。しかし、自社だけではノウハウがないので、ドイツの政府開発援助機関であるGTZに協力を求めた。その結果、HIVに感染した従業員に対しては治療プログラムが始められ、生産拠点がある地域社会の人々に対する予防プログラムも開始された。これらのプログラムは大変な成功を収め、ダイムラー・クライスラー社はいくつかの国際的な賞を受賞している。国連関連の賞の受賞では、同社会長のユルゲン・シュレンプ氏が、コフィ・アナン国連事務総長から手渡しで賞を授与された。また2週間ほど前にはドイツ国内の賞を受賞しその様子は全国で報道されていた。ダイムラー・クライスラー社は近々、中国とロシアというエイズの2大感染地に新しい工場をオープンするが、南アフリカで得た知見をもとに、工場の立上げの段階から従業員に対する予防と研修プログラムを開始する予定ということである。 このほかにも、オーストラリアの鉱業会社がパプアニューギニアで同じようなプログラムを検討中など、大手の多国籍企業がこのようなHIVエイズの予防に取り組む例が大変多くなってきている。会社にとってプラスになるだけでなく、人道的にも大変大きな意味がある。日本の企業でもこのような事業をご検討いただければありがたい。 |
角茂樹(世界基金理事・外務省国際社会協力部参事官): 世界基金の理事の立場から、これまで微力ながら色々なところを廻りご説明申し上げてきた。しかし、日本社会には、まだまだこれらの感染症を他人事と捉えるふしがあり、特にエイズに関しては、失礼ながら、経済界の中にも企業イメージとの関連からあまり関わりたくない、という感じがあるというような印象を受ける。しかし、エイズは国際的には、もはや限られた人がかかる限られた病気ではなくて、誰もがいつでもかかりうるほど蔓延してしまっている病気である。今後は、こうした事実に理解を得ることが重要である。何らかの大々的なキャンペーンができないかと考えているところである。 また、世界基金は2004年を例にとると1年間に15億ドルもの資金を供与する大変規模の大きな基金である。今後は、現在進行中の事業を継続するだけでも年間20億ドル以上かかる。これまで米国が9億ドル、フランスが3億2千万ドル拠出するなど、G8各国がコミットするなかで、私個人としては、日本の2億6500万ドルという拠出額は、世界的に見ると少ないのではないかと思っている。この感染症はまさしくアジアの問題になってきており、世界第二の超経済大国として、日本が応分の対応をする必要がある。現在の政府の財政難では年間約1億ドルを拠出するだけでも大変なのが現状ではあるが、日本企業が進出する中国やベトナムなどアジアの国で大きな問題になっているのであれば、やはり日本政府としてもっと資金を出すべきである、という声を日本の経済界からもあげていただければ有り難い。 山本正(世界基金支援日本委員会ディレクター・日本国際交流センター理事長): 政府広報もひとつの手段だが、今回のようにフィーチャム事務局長ご自身にメッセンジャーとなっていただくことも極めて効果的である。世界基金支援日本委員会として、今回の東京滞在中にフィーチャムさんと日本の国会議員をお引き合わせしたり、公開シンポジウムを開催するなどの事業を行っている。折角日本が国際的に積極的な活動をしているのであるから、声を大にしてこれを国民全体に知らせていく努力が必要である。
クリストフ・ベン: 治療に関しては、ダイムラー・クライスラー社は、HIVに感染し病気が進行した従業員とその家族に対して、抗レトロウィルス薬を無償で提供している。この薬は以前は高額だったが、現在では入手しやすい価格にまで下がってきた。この薬でエイズを根治することはできないものの、感染者はこの薬で適切な治療を受けていれば、健康な状態を保ち、働いて家族の生計をたて、地域社会に参加することができる。予防については、従業員に対し、エイズに関する情報や自らを感染から予防する方法についてパンフレットなどで情報提供したり、HIVに感染しているかどうかを調べる無料検査の機会を提供している。 これは、ドイツの政府開発援助機関であるGTZ(日本のJICAに相当する)とダイムラー・クライスラー社のパートナーシップによるものである。この例に関しては、両者に充分な資金があったので、世界基金は資金を供与してはいない。しかし他の企業で世界基金が関与している例としては、企業から「エイズの予防や治療のプログラムを行いたい。我が社独自にできるのは従業員対象のプログラムに限られるが、世界基金が資金を供与してくれれば、職場にとどまらず家族や地域社会全体に拡大できる。」という意向を寄せられ、パートナーシップを組むケースである。感染の著しい国で操業する多くの企業にとって、自社の職場にとどまらずコミュニティ全体のエイズ予防と治療にまで範囲を広げることが大きな関心事となっている。 リチャード・フィーチャム: このような企業の取り組みには興味深い側面がある。ダイムラー・クライスラー、アングロ・アメリカ、コカコーラ、バイアコムなど多国籍企業がまず先導的にエイズ対策に取り組み始めている国では、それに引き続きその国の企業が取り組みを始めるという現象が見られる。
リチャード・フィーチャム: 中国におけるエイズの蔓延は、世界の中で規模としては最も大きく、広がりのスピードも最速である。中国における感染は、今は中国固有の特徴があるが、それは現在どんどん変わりつつあり、アフリカ的な特徴が目立つようになっている。従来からの固有の特徴とは、中国では、薬物静脈注射と売血という二つの感染経路によって当初の感染が広がったということである。中国のある地域では静脈注射による薬物の乱用が非常に多く、これがHIV感染の原因となった。二つ目の売血であるが、内陸部の河南省を中心とする地域で売血の習慣があり、10年から20年もの間、国の政策のものとで、極めて不衛生な方法で血液を採取し血漿を集める、という方法がとられていた。これがエイズの蔓延を作り出し、ある県では成人人口の半分がHIV陽性である、という村さえある。 しかし、これから先に目を向けてみると、これらの中国特殊の状況を原因とする感染は減っており、世界のほかの国と同様に異性間の性交渉による感染が増え、世界の主流とおなじ感染経路になりつつある。そして、最初は男性の間で広がったが、次第に女性の病気になりつつあるという点でも、アフリカ、米国、欧州と同じである。1998年には世界のHIV感染者のうち女性の比率は15%であったのに対し、2004年には41%に上昇している。女性感染者の割合はどんどん高くなっている。 中国のエイズに関する今後の見通しであるが、慎重に見守る必要はあるが必ずしも悲観はしていない。なぜなら政府が本腰をあげてエイズ対策に取り組むようになったからである。中国政府のエイズ対策のキャンペーンに費やされる資金の額は、2003から2004年にかけて倍増するなど、政府のより深いコミットメントが見られる。
リチャード・フィーチャム: 3つほど候補がある。第1は、北京であれば国連合同エイズ計画(UNAIDS)の北京事務所が活発に活動をしている。企業の取り組みに関してもノウハウをもっており、よいアドバイスをしてくれるだろう。第2には、ニューヨークに本部をおくHIV/エイズ世界経済人会議(GBC)という組織である。国連大使を務めたリチャード・ホルブルック氏が理事長を務めており、多くの多国籍企業が加盟している。第3として提案申し上げたいのは、われわれ世界基金が御社の事業に資金提供する、という可能性もあるかもしれない。世界基金は中国に巨額の資金を提供しており、企業が始めようとするプログラムの規模を拡大することができるだろう。 私の知る限り、現在中国で操業する大企業でこの問題にとりくんでいる企業はないと思う。女性の感染者が急速に増えている現状のなか、女性従業員を多く雇用する企業で、このような取り組みを始められれば、世界のパイオニアとなるだろう。従業員だけでなく、ひいてはその家族やコミュニティを守ることになるだろう。
リチャード・フィーチャム: もっともな懸念だと思う。強制検査はどの国でも全くお薦めできないし、間違いなく人権侵害である。私の知る限り中国でもそのようなことはされていない。企業がとるべきアプローチは、まず予防教育と情報提供である。その後で、もし受けたければ匿名で検査を受けることができる、機密は保持されるので、よければ検査をうけてみましょう、と勧めることが重要である。むろん、いくら任意の検査とはいってもインセンティブ(動機付け)がなければ検査には来てはもらえないだろう。エイズが治る見込みのない病気だという認識があると、誰も検査を受けたがらない。治療を受けられるということが検査の呼び水になる。万一陽性だとしても会社がサポートするし治療も提供する、と伝えることで検査に来てくれるようになる。これまでの経験によると、最初の数ヶ月は従業員は懐疑的でなかなか検査所に足を運ばないが、少しずつ人数が増え、やがて急速に人数が増えるようである。時間がたつにつれ次第に信頼関係が築かれていくことと、やはり治療を受けられるという魅力が、受検者の数を増やすことにつながっている。
山本 正: 世界基金支援日本委員会では、東アジア各国がエイズなどの感染症にどう対応しているかを調査するプロジェクトを開始し、来年6月末にはその結果を共有する会議を開催することにしている。この中には、各国で企業がどのように対応しているか、という問題も含まれている。こういう情報交換の機会を通じて、各国の事例をお互いに学び合い、それぞれの国の中で企業同士がどのように協力していけばよいか、について協議していきたいと思っている。
リチャード・フィーチャム: ご指摘の通り、日本で問題が急速に大きくなっているということは間違いない。欧州や米国、カナダの経験から言えることは、今この段階で徹底的な対策をとれば将来大きな違いを生むだろうということである。エイズの蔓延をもたらす最大の危機は“待ってしまう”ことである。 クリストフ・ベン: その点に関して、ドイツの経験は日本と類似しており、何らかの参考になるかもしれない。ドイツでは、国内のHIV感染者数は限られているし感染者に対する治療方法もあり、ドイツはエイズ問題をコントロールできていると思っていた。しかし、近年になって感染者数が増えていることに気づいた。国境を越えた人の移動がその主要因である。人の移動は、我々がグローバル化した経済の一部に組み込まれている以上避けられない。ドイツは東欧に近く、東欧との間の人の自由な行き来によって感染が増えている。このためドイツでは、東欧諸国やロシアで予防と治療を推進することに関心を持ち、資金供与を拡大しようとしている。 中国をはじめするアジアの近隣諸国でエイズの感染が拡大しているなか、これらの国と経済活動や人の移動で極めて活発な交流がある日本も、ドイツと似たような状況を迎えているのではないかと思う。このような地域で予防と治療を推進することは、日本の利益にもかなうものである。この例に見られるように、エイズの蔓延は世界各国が共通に経験する課題であり、各国が協力することでしか対処できない。エイズというグローバルな問題に対処するには、各国が共同で対処するグローバルなメカニズムが必要であり、世界基金の存在理由はそこにある。 (文責:世界基金支援日本委員会事務局)
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このような機会に日本の経済界の皆様にお話できることは大変光栄である。日本は世界基金の生みの親と言っても良いだろう。なぜなら、世界基金という発想が生まれたのは、2000年のG8九州沖縄サミットだったからである。基金の設立第一日目から日本の皆様には大変なご支援をいただき、心から感謝している。今日は三つのことについてお話したい。まずマラリア、結核、エイズという三つの疾病について、そして世界基金の最新動向、最後にエイズとの闘いにおける経済界と労働界の役割について述べたい。