公開シンポジウム
世界エイズ・結核・マラリア対策基金の成果と課題
--国際的なセクターを超えたパートナーシップの促進を目指して--
2004年12月9日
リチャード・フィーチャム世界エイズ・結核・マラリア対策基金事務局長の来日にあたり、同氏を基調講演に、また日本側からは喜多悦子・日本赤十字九州国際看護大学教授、堀内光子・ILO駐日代表、山口誠史・シェア=国際保健協力市民の会事務局長をコメンテーターに迎え、国際連合大学との共催で公開シンポジウムを開催し、各界から100名余りが参加されました。
当日のプログラムはこちら。
日時:2004年12月9日(木)15:00-17:15
場所:国連ハウス「エリザベス・ローズホール」
まず3つの点について簡単に述べたい。第一に基金が取り組んでいる結核、マラリア、そしてHIV/エイズという3つの感染症について、第二に世界基金について、そして第三に今日のシンポジウムの焦点でもあるセクターを超えたパートナーシップについてである。
|
|
喜多悦子 (日本赤十字九州国際看護大学教授;世界エイズ・結核・マラリア対策基金技術評価委員) |
私はもともと小児科医で、血液疾患の研究や治療を行っていた。1980年代初期、研究室で働いている時にエイズという病気について知り、その感染拡大について心配したことを思い出す。 今日は「病気と開発」という視点からお話したい。1914年にパナマ運河が完成したが、実はその前にロックフェラー財団がカリブ海諸島の熱帯病、特にジフテリア、マラリア、黄熱、天然痘といった病気の対策を行ってたことにより、その成功が可能になったという事実がある。日本に関していうと20世紀の初め、日本の木綿産業、絹産業が発展した時、女性の労働者がたくさん結核で倒れたという記録がある。また、戦争と病気の関係で言うと、1812年のナポレオンのモスクワ侵攻が挫折したのは兵士が夏服を着てモスクワに向かい、冬になって兵士が下痢をしたからだ、という記録もある。第二次世界大戦では、日本の軍隊がたくさんマラリアや熱帯病で倒れた、という記録もある。病気が戦争という侵略行為も含めた歴史を変え得るということを、私たちは過去からたくさん学んでいると思う。 エイズ、結核、マラリアということに関してごく最近の私の経験を話すと、2002年に日本赤十字社のミッションとしてアフリカ南部のエイズ患者の多い村を視察に行った。ジンバブエの田舎の村では、赤十字のボランティアの女性が一軒の家に連れていってくれた。そこで会った高齢の女性は、4人の息子全員とその妻4人のうちの3人、つまり8人の子供の世代のうちの7人をエイズ、もしくはエイズと結核の合併症で亡くされたとのことであった。そして孫の世代については、正確な数はおっしゃらなかったが、もし4人の息子さんに4人ずつの孫が、すなわち合計16人の孫がいらしたとすると、その中で生き残っているのは1人、つまり子供と孫の世代24人のうち既に22人が亡くなっているということであった。そしてその生き延びている嫁に当たる方が赤十字のボランティアをしておられたのだが、その方もHIV感染者であった。つまりこの家庭はほぼ壊滅に近い状態である、ということをそこで知った。そしてその生き残っているお嫁さんは私に自分たちのような家庭は珍しくない、と言った。そこで目にした、エイズと結核という病気がその地域をほとんど破滅させている、という事実は我々の想像を超えるものであった。 私はその数年前に世界保健機関(WHO)の緊急人道援助部(Emergency and Humanitarian Action)でアフリカの紛争地区を担当した。その時に知ったことは、やはりエイズという病気が紛争と相まって地域社会を壊している、ということだった。これは多くの地域紛争が民族的な対立の様相を帯びているために、敵味方に分かれてしまうとそれまで協力してきたお産や子供の病気等に対する人々の連帯感が薄れ、互いを手助けしなくなる、ということであった。先程申し上げたジンバブエのエイズの村でも、人々は協力しようという姿勢は持っていながらも、やはり父親がエイズでなくなり、母親がHIV感染で寝込んでいる、という家には手出ししにくい、ということであった。紛争やHIV/エイズという病気が地域の人々の連帯を壊している、という事実が私には非常に重要な点であるという気がした。 先程フィーチャム事務局長が政府やNGOの役割について述べられたが、私はエイズという病気はHIVというウイルスの感染症、結核は結核菌というバクテリアの感染症、マラリアはマラリア原虫というプロトゾアの感染症、であるにも関わらずこれらが単に医学的保健分野の中の問題だけでは収まらなくなっている、という現実に目を向ける必要があると思う。すなわち、保健医療の施設、病院や保健所等でそこに来た患者さんを治療するという受け身の診療保健活動だけではなく、もっとコミュニティの中に出ていくという能動的な活動が必要であると考える。最近関わっている仕事の中では、例えば独立行政法人国際協力機構(JICA)は直接的なエイズ対策のプロジェクトを多く実施している。また国際協力銀行(JBIC)では、インフラ工事に関与する労働者、特に移民労働者といった人々を採用する際に健康教育としてエイズについて教育する、という試みを取り入れ始めている。こうしたことは保健医療の問題とはいえ、企業や地域との接点をより密接にした取り組みが必要ではないかと思う。WHOや国連合同エイズ計画(UNAIDS)、その他の国際機関がそれぞれの試みを進めているが、私は世界基金はあくまでも現場至上主義という姿勢で、本当に困っているところに必要なリソースが向けられるように働いて欲しいと思う。 |
| 堀内光子(国際労働機関(ILO)駐日代表) |
エイズの問題というのは私たちの「仕事」に関わる非常に深刻な問題である。私のコメントでは、HIV/エイズについて職場をもう少し中心に置いた対策、あるいは職場の中での活動が必要なのだということを申し上げたい。率直に申し上げると、ILOとしてはマラリアにはあまり関与していない。結核はILOとWHOが共同で行動規範を作っている。それだけを申し上げた上で、時間が限られていることからも、フィーチャム事務局長も大変深刻な問題だとおっしゃったHIV/エイズの問題に特化してお話したいと思う。 ILOは今ディーセント・ワーク(Decent Work)、これはすなわち人間らしい仕事、また、まともな仕事とも言い換えられ、仕事がある、働く人々の権利が守られている、働く人々の社会保障のみならず健康と安全がきちんと保護されている、そして社会対話という4つが含まれた目標に取り組んでいる。ディーセント・ワークを達成する上でHIV/エイズは大変大きな脅威だと受け止めている。ILOは国連機関の一つであり、国連よりも早く設立された。先程1914年のパナマ運河の話が出たが、ILOは1919年に国際連盟と共にできた古い機関であり、いわば仕事の専門家集団である。 最初にILOのパートナーシップについてお話したい。通常の国連機関は政府のみが加盟国であり、政府のみが意志決定権者であるが、ILO は仕事の世界を扱っているので国連の中でユニークな三者構成を取っており、そこには政府、労働者の代表、経営者の代表という三者が含まれる。その意味で、ILOは政府を超えたパートナーシップを構造的に取っているといえるであろう。従って、HIV/エイズへの取り組みも政府を超えた形で行っている。それとともに、我々の構成メンバーである政府、労働者、そして経営者だけではHIV/エイズと闘うことはできず、それを超えた、コミュニティに根ざしたNGOや医療関係者を含む幅広いネットワークが必要だということもよく理解している。ILOが作っている、職場でHIV/エイズと闘うための行動規範「HIV/エイズと働く世界」を参考にしていただきたい。 簡単に4点申し上げたい。一つは働く世界でHIV/エイズというのがどれほど深刻かという現状、2点目はそれに対してILOがどのような対応をしているのか、3点目は我々の大切なパートナーあるいは意志決定者ともいえる労使が実際にどのような行動をとっているか、そして4点目は、最近新しい感染者は女性が多いという現状も踏まえたジェンダーの問題である。 ・働く世界でのHIV/エイズの現状 働く世界での現状がいかに深刻かについては、「初の国際分析:HIV/エイズは仕事の世界に大きな影響を与える」(『ワールド・オブ・ワーク』2004年第2号)という雑誌をご覧いただきたい。これは最近ILOが発表したものの日本語版だが、これによると現在3,650万人の働く人々がエイズと共に生きている。そしてHIV/エイズが流行し始めてから2005年までに、2,800万人の働く人々が亡くなっている。また、今以上の治療が提供されなければ2010年までには4,800万人、2015年までには7,400万人の働く人々が亡くなるだろうと分析されている。HIV/エイズが仕事の世界における死亡の最大原因になると、これは「亡くなる」という働く人々自身とその家族にとっての苦しみだけにとどまらない。2005年の推計によると、HIV/エイズにかかったために200万人の方が働くことができずにいる。加えて200万人の方々がエイズ 患者の看護のために働くことができない、という現実がある。また、2015年にはこの数が倍になるだろうといわれている。ご存知のようにHIV/エイズで最も影響を受けている国の大部分はアフリカであり、アフリカの特に働き盛りの15歳から49歳の人々のHIV/エイズの罹患率は7.7%という推計が出ている。従って人々の苦しみを考えるとこれはまさに人間の安全保障への脅威といえる。さらに働く人々の収入が減ることを考えると、これは医療問題だけではなく社会問題、特に人権問題でもあるともいえる。働く人々がこのために差別を受けたり、いわれなき汚名を着せられたりするという問題もあり、それは大変深刻である。また、子供や女性といった社会的弱者に対するジェンダー不平等の問題も大きく、その結果生じる企業への損失は計り知れない。生産性の低下やそのためにかさむ労働費用、それから技能を持つ人々の消失は、企業の大きな損失につながる。我々の推計では、1992年から2002年の間にGDPが年間0.2%低くなっており、これは年間250億米ドルの損失である。また一人当たりのGDPの成長率も0.1%低くなっているという推計が出ている。 ・ILOの対応 ILOは、仕事の世界を担当する機関として、医療以外にも、職場におけるHIV/エイズとの闘いにより関与及び支援していくことが重要であると考えている。 その中で重点を置いていることが3点ある。一つはエイズ教育で、予防、保護、それから人権問題として扱っている。2点目は職場でのケア、治療や看護、そして3点目が差別との闘いであり、これは大変重要だと思っている。ILOの「HIV/エイズと働く世界」という行動規範は、政労使三者だけではなく、連携する社会のパートナーとの協力の成果として作られたものである。ぜひこれからそういった方々に使っていただきたい。そして行動規範を使うことによりHIV/エイズの拡大を防止し、働く人々と家族への影響を緩和し、また必要な社会保障を提供することを考えている。主要な原則はいくつかあるが、まずHIV/エイズが職場の問題であるということを認識していただき、また女性の地位が低い所ほど被害が深刻だという調査結果からジェンダー平等の達成が重要であることも理解していただきたい。この行動規範には、その他、社会対話、検査と秘密保持、健康な職場環境、また情報と教育による予防キャンペーンについて書かれている。 ・労使の取り組み ここで労使の取り組みの具体例を申し上げたい。労使は世界的には国際自由労連(ICFTU)と国際使用者連盟(IOE)という組織が、HIV/エイズに関する共同声明を2003年の5月12日に出した。要するにHIV/エイズと一緒に闘おうという声明である。またアフリカ全体の労使も同じような声明を出していて、現在アフリカのコートジボワール、ガーナ、ケニア、マラウィ、マリ、タンザニア、ウガンダ、ザンビアの8カ国では職場での流行を抑えるための共同プロジェクトを作成中である。南アフリカでは南アフリカ労働組合連合会(FEDUSA)が教育プログラムやカウンセリングといった様々な活動を行っている。また日本にも、日本労働組合総連合会(連合)とその連合の支援で実際に開発途上国に援助をしている(財)国際労働財団(JILAF)が、2005年からアフリカの地域においてこうした教育やプログラムの実施を計画している。非常に大きなグローバル・ユニオンズという労働団体では、世界各地の成功事例を共有している。例えばドミニカ共和国での職場の差別撤廃への努力や、ジンバブエの労働組合が行っているカップルへのワークショップ、またタイのストリート・シアター(路上劇場)における意識啓発等が含まれ、より良い情報を提供する、共有するために労使共に努力している。現在、労使の間ではHIV/エイズと闘うことは共通の利益なのだという意識が高まっており、特にHIV/エイズに大きな影響を受けているアフリカ地域では、そうした労使の協力関係が見られる。 ・ジェンダー 現在、貧困と低教育水準にある所では15歳から24歳の少女と女性が最もHIVに感染する危険性が高い。従って、エイズ対策においてもジェンダー平等を考慮することが重要である。 最後に世界基金には、職場の人々、特に労使の活動、そして組合の人々がコミュニティと行っている活動にもぜひ目を届かせていただきたい。特にHIV/エイズの人々は職場を失う、あるいは職場で働けないことが多い。私個人としては、今後、地域レベルでエイズ患者たちが協同組合を作り、その中で仕事を産み出していく活動を支援していこうと思っている。 |
| 山口誠史(特定非営利法人シェア=国際保健協力市民の会事務局長) |
シェアは世界基金の資金を受けた数少ない日本NGOの一つである。今日は、世界基金のパートナーとして、エイズを含めた感染症に取り組んでいるNGOの立場から、そして私たちが共に働いている人々を代弁する立場から少し事例を含めてご報告したい。国際保健協力市民の会(シェア)は1983年に設立された保健医療専門の日本のNGOである。現在タイ、カンボジア、東チモールなどに看護師などの医療職者を派遣し、現地で地域保健やエイズへの取り組みを行っている。そこで得た経験の一つとして、タイにおける事例、特に世界基金の資金を得て活動している事業を紹介したい。その際、私たちの経験から世界基金への提言と期待についても併せてお話したい。 タイでは比較的早い段階にエイズの問題が顕在化し、政府、民間、NGOとが協力して対策を進めたために、今は比較的落ち着いた状況にある。タイの状況は、アフリカほど深刻ではないかもしれないが、人口の約11%がHIVに感染しているといわれている。当初はセックスワーカーなどを中心とした都市部での感染が非常に多かったが、それが現在は農村部にまで広がっている。確かにコンドーム100%運動などの予防対策が成功したことで新たに感染する人は減っているが、一方で数年前に感染した人が最近になってエイズを発症することで、発症している人が増えてきている。それと同時に世界的に普及している抗レトロウィルス剤(ARV)が高価なために、農村の貧しい人たちはARVになかなかアクセスできなかった。そのために実際に感染してしまった人たち、特に若い働き盛りの夫婦においてはただ死を待つのみ、というケースが多かった。また、両親が死んでしまったために、残された子供たちが孤児となってそれを支えるために祖父母や親戚などが子供たちの面倒を見なくてはならないという状況があった。 ところが2003年に世界基金の支援を受けたタイ政府が、タイにおけるすべてのエイズ患者にARVを配布する方針を出してから、状況は大きく変わった。この薬は、根本的なエイズ治療薬ではないがHIVに感染した人がエイズを発症することを防ぐことができ、この薬を貧しい農民でも手に入れられるようになり、生き残る希望が見えてきた。しかし当初タイの医師たちは、ARVは使いづらい、処方が難しい、また中断してしまうことによって耐性を持ってしまう、あるいは副作用がおきやすいという様々な理由から、ARVに対して懐疑的だったと聞いている。その問題解決に有効だったのが、医療の立場からではなく、感染者自身の動きであり、彼らのグループ活動によってそれが打開できたという例がある。 シェアはタイ東北部、ラオス国境に近いアムナチャラン県とウボンラタチャタニ県ワリン郡で、1990年代後半からHIV感染者への支援を続けてきた。当初は感染者が村の中で差別を受けていた。彼らは、薬もなく放置されたり村八分にされて心身共に苦しい状況に置かれており、彼らへの精神的な支援、またその人たちを病院につなぐような活動を行ってきた。さらに病院と協力して感染者のグループを作って月一度ぐらい病院に集まってきた人たちがエイズに関する知識を得て、どのように対応していくべきか、互いに孤立していた感染者同士が相談し合ったり助け合うためのグループ作りを始めた。こういう同じ病気を持った人たちが互いに支え合うというのは非常に有効な心の支えとなったといえると思う。それが今ではこの感染グループの中からリーダーが誕生し、自分たちで主体的に活動できるようになったため、シェアの役割は限定的になり、主にエイズの薬や治療に関しての情報提供やアドバイス、あとはグループ運営のための技術的な支援等を行うようになった。そのリーダーたち、感染者自身が独自に世界基金に申請をして家庭訪問や病院での相互学習への資金を得ることができた。我々は、持続性ということを考えた場合、自分たちの活動というよりは、できるだけ感染者やそのコミュニティにいる人たち自身が申請するといった力をつけていくよう支援することが重要だと考えている。 こうして、感染者による世界基金への申請が成功し、治療薬の服薬もうまくいくようになった。さらに、この事業を通して差別や偏見に取り組んできた人たちが、一人一人他の感染者の家庭を訪問し互いに励まし合うようになり、既に2つの地域ではARV使用を継続した患者の治療が9割に達しているというような地域もある。また、エイズ感染者が地域で生きていくためには住民・感染者以外の家族や村人たちに対してエイズの正しい知識をつけてもらい、偏見を持たないような社会を作ることが重要である。そのために我々はエイズ教育、予防啓発活動を積極的に行っている。その際、一方的に講義するのではなくて、ワークショップ等を設けて、体験的に知識を得ていくよう支援している。これも最初はシェアが独自にトレーニングを行っていたが、徐々にボランティアのグループができ、ボランティア・グループが地域住人にトレーニングを行うようになってきた。これも持続性の観点から、我々が撤退した後も、村の中でそういった予防啓発活動を計画できるようにということで支援している。このような予防啓発活動は、シェア自身が世界基金から資金を得て実施している。 このようにタイにおけるシェアの活動では、感染者自身が自分たちで世界基金に申請したり、またシェア自身が世界基金から資金を受けて予防啓発活動を行っている。ここから、世界基金の資金は、こうした草の根の活動に使われているといえるだろう。しかし、これがより有効に使われるためには、いくつかの条件が必要だと思う。その一つに、各国におけるCCM(国別調整メカニズム)の使い方がある。タイではCCMにNGOや感染者団体の代表などが入っており、現場で働く人たちの積極的な参加によって実情を最もよく知っている人たちが政策づくりに関わっている。この点が非常に重要かと思う。国によってはCCMの中にこういった人たちが入っていないために、現実と食い違った使い勝手が悪いものもあると聞いている。是非CCMにおける感染者、NGOの参加の重要性を考えていただきたい。 最後に、シェアの活動地域は海外が中心だが、日本における在日外国人支援活動も行っている。日本でも今エイズの問題は非常に深刻であり、発症者の4人に1人は外国人だといわれている。そういった外国人は日本の自動車産業を始めとする多くの製造業、あるいはサービス業に見ることができるが、その人たちがHIVに感染した場合に非常に不安定な立場にあり、なかなか医療にアクセスできないという現状がある。こうした状況に鑑み、シェアは、特にタイのプロジェクトとの連携の中で、日本におけるタイ語によるHIV感染者、エイズ患者に対する電話相談や本国帰還への支援活動を行っているが、こういう人たちの問題は今後日本の中でも非常に大きな問題になると考える。こうした在日外国人をどのような形で支援していけば良いか、治療にどう結びつければ良いかを考えていかなければならない。またシェアが行っているタイの活動においても、ラオスとの国境に近いためにラオスからHIV感染者がやってくる。こうした国境を越えた人たちへの対応をどうすれば良いか、それは国際機関やNGOがすべきなのか、それとも本国がすべきであるのか、ということが問題になる。世界基金には国境を越えた労働者(移住労働者)の問題にも取り組んでいただきたい。 |
| クリストフ・ベン(世界基金渉外担当ディレクター) |
この新しく革新的な組織にどうやって参加していけば良いのかということは大きな問題である。世界基金のユニークさについては既に色々と言われている。中でも特に政府や企業、またNGOや国際NGO、草の根団体といったありとあらゆるセクターの参加を求めている点が注目されている。世界基金のこれまでを振り返ってみると、世界基金設立においても、地域組織やNGOは重要な役割を果たした。その頃世界には感染症と闘うために必要な資金を提供する組織の設立を求める政治的運動が起こっていた。それにはエイズが最初から極めて「不名誉」な病気として見られていたことにも関係している。エイズについて語りたがらない人々は多く、その問題に対し最初に声をあげるのはほとんどの場合政府ではなかった。ヨーロッパでも北米でもアフリカでもアジアでもどこの国でも同じように、政府は自国でHIV/エイズが問題になっているということを認めようとさえしなかった。従って感染症にかかっている人々が集まって声を上げ、政治的な圧力をかけて世界基金の設立を促したのだ。従ってそこには常に世界基金は草の根団体や民間団体のものである、という意識がある。また彼らは世界基金の機構にも積極的に参加を求めた。基本的な機構は国ごとに組織されるCCMである。そこでは、セクターを超えたアクターが一同に集まり意見を交わす。 今日の我々の課題はこのCCMを発展させ、先ほど話に出た職場や労働組合や経済界といったさらに多様なアクターを取り込んでいくことであろう。これらの団体は市民団体と違って初めから世界基金への参加に積極的な態度を示していたわけではない。彼らが今後世界基金について学び、関与していくことが重要である。企業や労働者が他のアクターと同じように世界基金に参加していくことの重要性については認識が広まっている。それには様々な方法があるが、世界基金としては、彼らにCCMに加わってもらい、彼らの優先事項や戦略について意見を述べてもらいたい。全ての国でさらなるアクターの参加を奨励することにより、世界基金の提供できる支援の可能性が広がると思う。 この部屋にはありとあらゆるセクターを代表する方々が集まっているだろうし、海外にも経済界、労働組合、NGO等を通じてお知り合いがいらっしゃると思う。是非我々に皆様の情報を提供していただきたい。そうすることにより、世界基金はその活動が政府機関のあり方までも変え得る世界的運動となり、また資金をさらに有効に活用していけることになるだろう。 |
リチャード・フィーチャム: 中国ではNGOがCCMに参加しているし、HIV/エイズ対策の分野においては、これまで以上に政府とNGOが活発に協力し合っている。しかしここで問題となるのはNGOの定義である。この定義は中国で変わりつつあると思う。以前は、NGOと呼ばれていた団体でさえ政府の息がかかっているものが多く、政府によって作られた組織とも言えた。従って彼らを完全に独立した市民社会の声とみなすことはできないだろう。しかし、私の印象では状況は変わりつつある。今週も北京でいくつかの団体と会う機会があったが、彼等は完全に政府から独立しており、強い意見を持っていた。状況は好転していると思う。また、政府に近いNGOもHIV/エイズに対して大変良い活動を行っている。 2001年末から2002年初めにかけて世界基金の基本構造がデザインされた時、特にCCMについて疑問を持たれた方が多かったかと思う。CCMというのはいくつもの利害関係者が同時に顔を合わせ、意見を交わす場である。果たしてそのようなCCMが民主主義的でない社会において本当に意義をもって活用されるのだろうかと疑問に思ったのではないだろうか。また今でも疑問に思っている方がいるのではないか。現在世界には130にも上るCCMが存在し、それらは民主的な社会の非常に民主的なものから、あまり民主的でない社会のあまり民主的でないものまで様々である。しかし、私は今の時点では、あまり民主的でない社会でも、また全く民主的でない社会でもCCMを組織することは可能であり、またそれが効果的に機能することも可能であると考える。そしてそれはさらに以前は想像もできなかったような異なるアクター間の会話を開拓し得る。実際にいくつかの国ではCCMが様々な利害関係者の関与や主体性を促し、そして非政府団体が政府に異議を申し立てるといった新境地を開拓している。もちろん国によって程度は全く違うが、これは大変前向きな発展だと思う。 我々が経験してきたことから申し上げるならば、CCMが本当に民主的な社会でしか効率的に機能しないということはないと思う。
喜多悦子: 例えばジンバブエのような場所での保健医療システムは、エイズが広がったからそうなったのではなく、元々の低開発、貧困によってもたらされている問題がエイズによって一層悪化しているといえるだろう。私はどちらかと言えば紛争地での経験が多いが、保健医療システムは紛争で悪くなったというよりも紛争前に悪かったものが一段と悪化した、というのが現実である。従って、感染症対策を契機に、元々悪い保健医療システムを作り直さなければならない、構築しなければならないという地域はたくさんあると思う。こうした状況に対処する場合、国連世界食糧計画(WFP)の分野でできるような緊急的な食糧配布、あるいは緊急人道援助といった救命的な活動と、もう少し長期的な開発協力の二つに分けて考えないと、いずれの取り組みも効果が出ないのではないか。 リチャード・フィーチャム: ジンバブエと他のアフリカの最貧国に抗レトロウィルス薬(ARV)治療を広めることについて、私の経験はそこまでひどいものではない。アフリカにはジンバブエよりもまだ貧しい国がいくつもある。例えばルワンダやウガンダ、ザンビア、タンザニアだ。それらの国でもARV治療プログラムは進行しており、薬は配布され、アクセス度は増している。もちろん、どの国でも初めからそうなるわけではない。保健医療システムを作り、医師や看護士を育成し、そこから徐々にARV治療が普及していく。最初は市や町から始まることが多いが、それ自体に問題はないと思う。そしてそこから少しずつ農村部にも展開していけば良い。アフリカの農村部にも、資金供与さえあれば今すぐにでもARV治療を行える診療所や病院がある。しかしこれは時間のかかるプロセスである。 そして先程喜多氏が述べられた、感染症の発生は慢性的に資金が不十分な医療システムを改善する機会であるというコメントに大いに賛同する。HIV/エイズに関して一つ良い側面があるならば、それは常に資金が不足している医療システムに使える新しい資金が集まってきているということであろう。この資金により新しい建物や研究所を建てたり、新たに医師や看護士を育成することができる。そしてこの投資はHIV/エイズに対してだけではなく、保健医療の分野の他用途にも使うことができる。 世界基金の資金配分についてだが、我々自身が予め、予防、検査、治療、ケアの間の配分割合を決めることはしない。基本的に配分先は申請書に基づいて決めるが、一般的に、我々は申請をした人たちの方が我々よりもその国の必要としているものとそのバランスを知っていると思っている。もちろん彼らが間違いを犯さないわけではないが、それでも我々よりは間違いを犯す確率が少ないと思っている。従って例えば予防と検査と治療にかける金額のバランスについては、申請者側の判断を信用する。 現時点では世界基金は検査や治療よりも予防に多くの資金を充てている。しかしこれは治療プログラムが拡大されるにつれて変わっていくかもしれない。そうなると本質的に予防よりもお金のかかる治療に資金が使われることは十分考えられる。しかし世界基金は予防に対する強い姿勢を崩すことはない。特にまだ感染が広がっていない国々では予防は最優先されてしかるべきだ。例えば今アジアでは、アフリカのような事態を避けるべく予防を徹底することが優先されなければならない。
榎波孝嗣・住友化学株式会社執行役員: 先程お話に出た通り、2004年11月にタンザニアで、アフリカ第一号の長期残効型の防虫剤処理蚊帳の工場の開所式を行った。住友化学はこの工場に無償の技術供与をしている。この工場を建設するプロジェクトそのものも、WHO、国連児童基金(UNICEF)、Exxon Mobil等から協力を得て実施した。NGOの方にも最初から入っていただいて、この工場建設プロジェクトを進めてきた。これは非常にうまくいき、本日の課題でもあるセクターを超えた協力が成功した例だと思っている。これをさらに広げて第二、第三の現地生産拠点を作っていきたいと思っているが、今我々が感じているのは蚊帳を作るだけではなく、これをアフリカ等各地のマラリアで困っているコミュニティに届け、実際に使ってもらい、その効果をきちんとモニターすることの必要性である。その際、我々が直接行うというより、先ほど出たCCMを通じて、例えば医療機関や特にNGOの方々の協力が不可欠だと思う。そのためにも今後、色々な方々を動員することが課題だと思っているが、そうした面で世界基金の方々のご指導をいただきながら進めていきたい。
*質問4、5への回答は最終コメントに含まれる。 |
吉報は、現在我々にはマラリアの撲滅を加速しうる技術があるということであり、その効果は既にいくつかの地域で目にすることができる。マラリア対策には4つの鍵となる介入があるが、その中の2つをここで取り上げたい。両方とも新技術を応用した最も重要な発明といえるかもしれない。一つ目は殺虫剤加工された蚊帳である。特に新しく住友化学によって開発され、製造された「オリセット蚊帳」だ。その蚊帳にはあらかじめ繊維に殺虫剤を練り込んでいるため、後から蚊帳を殺虫剤に漬けるといった処理が必要ない。蚊帳は買った時点で既に殺虫効果がある。そして殺虫効果は蚊帳そのものよりも長持ちする。殺虫効果は5-6年持つが、蚊帳は3-4年も使うとボロボロになってしまう。これは大変効果的な技術であり、この蚊帳の中で寝ることによりマラリア原虫を媒介するハマダラ蚊に刺される確率、それと共にマラリアに感染する可能性は格段に減る。しかも人はこの蚊帳の中で実際に寝る必要はない。蚊帳を使っている家の中で寝るだけでも効果は得られるし、また蚊帳をカーテンとして窓の近くに吊っておくことも予防に大変役立つ。これは蚊帳が空気中に殺虫効果のある蒸気を放出しているからである。これが一つ目の技術である。この蚊帳を製造する世界最初の工場がつい数週間前、アフリカで開設された。工場はタンザニアのルサカ郊外にあり、世界基金と住友化学との技術契約の結果として年に100万もの蚊帳を製造していくことが予定されている。
)という政策を発表した。中国は昔から市民に真剣にメッセージを伝える際、数字を用いる傾向がある。そして中国はこの"4 Frees and 1 Care"を打ち出した。"4Frees"とは、無料の抗レトロウィルス薬(ARV)治療、無料の自発的カウンセリングと検査、母子感染を防ぐための妊娠女性への無料治療、エイズ孤児のための無料教育である。そして"1 Care"とは、HIV/エイズと共に生きる人々とその家族への経済支援である。"4 Frees and 1 Care"が発表されたからといって、これが実施されるとは限らない。しかしこれは少なくとも第一歩であり、また公約である。そして事実、今日我々は中国におけるプログラムの拡大を見ることができる。約2,000人の患者が治療を受けており、その数は急激に増加している。2003年には中国政府はHIV/エイズ対策予算を倍にし、2005年にも大幅に引き上げられるだろうと思われる。これは吉報である。しかし中国でもインドでも他のどの国でも、政策とニーズの間には大きな隔たりがある。我々の前にある大きな課題は、社会的にも経済的にも多大な影響を及ぼすこの悲惨な病気への対策を強化してくことである。
私はもともと小児科医で、血液疾患の研究や治療を行っていた。1980年代初期、研究室で働いている時にエイズという病気について知り、その感染拡大について心配したことを思い出す。
エイズの問題というのは私たちの「仕事」に関わる非常に深刻な問題である。私のコメントでは、HIV/エイズについて職場をもう少し中心に置いた対策、あるいは職場の中での活動が必要なのだということを申し上げたい。
シェアは世界基金の資金を受けた数少ない日本NGOの一つである。今日は、世界基金のパートナーとして、エイズを含めた感染症に取り組んでいるNGOの立場から、そして私たちが共に働いている人々を代弁する立場から少し事例を含めてご報告したい。
この新しく革新的な組織にどうやって参加していけば良いのかということは大きな問題である。世界基金のユニークさについては既に色々と言われている。中でも特に政府や企業、またNGOや国際NGO、草の根団体といったありとあらゆるセクターの参加を求めている点が注目されている。