(財)日本国際交流センターでは、非営利組織に関する情報公開サイトの草分けとして知られる米国の「ガイドスター」の創設者バズ・シュミット氏の訪日を機に、日本の非営利活動促進に関わる関係者との意見交換のためのプログラムをコーディネートしました。3日間というわずかな東京滞在中ではありましたが、関係機関のご協力を得て、非営利セクターのリーダーのみならず、国会議員・政府関係者、企業の社会貢献部門関係者など幅広い関係者との懇談が実現しました。

ガイドスター(GuideStar)とは、全米の95万におよぶ非営利組織の事業内容、財政状況などを公開しているウェブサイトです。寄付文化の発達した米国では、個々の寄付者(ドナー)がこうしたサイトで寄付先の非営利組織を見極めるほか、助成財団も助成審査の際の有用な情報源として活用しています。また非営利組織にとっても、こうした情報開示サイトの存在は透明性とアカウンタビリティを高め、かつ資金調達にかかるコストの軽減にもつながっています。特徴的なのは、こうした情報公開がIRS (米国内国歳入庁) <注:日本の国税庁にあたる>との提携で行われていることです。ガイドスターでは、IRSの協力を得て、米国の非営利組織からIRSに提出されている税務申告を活用することによって情報の精度を高めることが可能になっています。

バズ・シュミット氏を囲むセミナーの日程
2002年
7月2日  午後  日本の財団関係者との懇談(公益法人協会/日本国際交流センター共催約40名)
7月3日 午前 NPO関係者との懇談(日本NPOセンター主催約20名)
午後
議会関係者との懇談
塩崎恭久衆議院議員・自民党行政改革推進本部幹事、国際的NGOに関する小委員会委員長
林芳正参議院議員・自民党行政改革推進本部事務局次長
古川元久衆議院議員(民主党)
浅尾慶一郎参議院議員(民主党)
7月4日 午前 熊代昭彦内閣府副大臣・内閣総理大臣補佐官(行政改革担当)との懇談
午後 経済界関係者との懇談(日本経済団体連合会社会貢献推進委員会社会貢献担当者懇談会主催 約30名)

バズ・シュミット氏講演の要旨
(数回にわたるセミナーの内容と意見交換のうち主要なポイントをまとめたもの)
ガイドスター誕生の背景と目的
ガイドスターが提供する情報
情報集約の仕組みとIRSとの関係
ガイドスターの利用者層
フィランソロピック・リサーチの沿革と財源
財務分析をどう利用するか
評価の指標はあいまい
英国でもサイト開設の計画
主要な質疑応答
 
ガイドスター誕生の背景と目的
米国の非営利セクター全体の財源の2割を占める寄付収入の内訳を見てみると、個人寄付が77%、助成財団からの助成金10%、企業寄付5%、遺産8%と、個人寄付が圧倒的に大部分を占めている。非営利セクターは慈善寄付を引きつける巨大なマーケットであると言って良いだろう。しかし、巨大であるにもかかわらず、一般のドナー(寄付者)が入手できる情報が不足している。情報がなければドナーが確信をもって賢く寄付対象を決めることはできないし、NPOにとっても低コストで寄付を集めることができない。ガイドスターのミッションは、情報を通じて、非営利活動に“革命を起こす”ことにある。情報公開が進めば、ドナーはより適切に寄付先を決定できるようになるし、非営利組織の側も透明性とアカウンタビリティを高め、かつ資金調達にかかるコストの軽減にもつながる。非営利セクターにこうした適正かつ効率的な資源の配分が実現するためにガイドスターは創設された。
 
ガイドスターが提供する情報
ガイドスターとは、フィランソロピック・リサーチ(Philanthropic Research, Inc.)がウェブサイト上で運営するデータベースである。IRS(米国内国歳入庁)<注:日本の国税庁にあたる>の協力を得て、全米の非営利組織からIRSに提出されている税務申告などの情報をもとに、およそ95万の非営利組織の事業内容や財政状況を集約しホームページで公開している。

基本となる情報は、ウェブサイト上で無料で自由に検索できる。各団体の目的、事業の概要、昨年度の事業成果と今年の目標、財政状況、理事会、税務申告書“Form 990"が掲載されている。Form 990はPDFファイル画像になっているので現物の写しを見ることができる。各団体のページが、あたかもその団体のミニ・ウェブサイトになっている、と想像していただければわかりやすいだろう。検索は、団体名はもちろんのこと、キーワード、地域、活動分野、組織形態、財政規模、税法上の分類コード(NTEE)で検索することができるようになっている。

このほかにも、各団体の納税状況や免税資格の最新状況などがわかる「チャリティ・チェック」、各団体の財務を詳しく分析する「アナリスト・レポート」、団体の代表者や幹部職員の給与が比較できる「ノンプロフィット・報酬レポート」を有料で提供している。「アナリスト・レポート」では、約10万団体の過去3年間の財政状況の推移、同分野のNPOグループの財政比較、同地域のNPOグループとの財政比較などができるようになっている。これらは、どちらかというと、個人寄付者より助成財団など専門家向けの情報源となっている。

さらに、他の機関とライセンス契約を結ぶことで、他のウェブサイト上からガイドスターのデータベースを直接検索できるようにもなっている。例えば、AOLタイムワーナー、シスコ・システムズ、Yahooの共同によるオンライン寄付サイトNetwork for Goodや、金融機関フィデリティ・インベストメント社のドナー・アドバイズド・ファンドであるFidelity Charitable Giving Fundなどにデータベースを提供し、寄付や助成の促進に貢献している。また、州政府や州チャリティ局協会などと提携し、各州の非営利組織のチャリティ報告を合理化するための共通システムの開発なども手がけている。
 
情報集約の仕組みとIRSとの関係
情報の集約は、IRSとの提携関係が基本になっている。米国では、年間収入が2万5千ドル以上の非営利組織はIRSに納税申告書“フォーム990”を出すことが義務づけられており、現在これに該当する団体が毎年約25万ある。このフォーム990をIRS がTIFFファイルにスキャンしてガイドスターに送り、ガイドスターはそれをPDFファイル化して画像をウェブサイト上に掲載するとともに、デジタル化してデータベースに利用している。ガイドスターでは、1997年から2001年までの5年間で計845,000の申告書を処理した。

ちなみにフォームをスキャンする機械はIRSがもともと持っていたものではない。フィランソロピック・リサーチと全米チャリティ統計センター(NCCS)が、ガイドスターを立ち上げるにあたって、財団から特別の助成金を得て、IRSに100万ドルの資金を提供しスキャナーを購入できるようにしたものである。それもあって、IRSはフォーム990の情報をガイドスターだけに提供しており、その関係は「非公式な独占」と言えるだろう。例外として、非営利組織の中でも民間財団の申告書(Form990PF)だけは、財団センターへも提供されている。が、それもこの機械でスキャンされている。なお、IRSの情報は国民に対する公開情報であるため、無料で提供することが要請されている。

IRSから得られる情報以外に、各団体から直接提供してもらう情報もある。現在、最新情報を提供しているのは5万9千団体ほどで、事業の内容や成果、来年度の目標など詳細なレポートが送られてくる。IRSに税務申告しなければならないのが25万団体で、そのうち5万9千しか直接情報提供していないのは一見少ないように思われるかもしれないが、全米規模で広報し募金活動を展開しているのは米国でも9万団体程度と言われ、そのうちの5万9千という数字は必ずしも少ないとは言えないと思っている。積極的な情報提供依頼をすればこの数字は確実に増えるだろう。
 
ガイドスターの利用者層
現在のところ、利用者数は年間370万人、3220万ページのアクセスがある。数の上では一般の個人寄付者の利用が多い(46.9%)が、利用頻度からすると非営利組織(43.7%)と研究機関・政府規制機関(16.1%)、財団(15.8%)がヘビー・ユーザーとなっている。通信記録で見ると、金融機関や大学からのアクセスが多い。金融機関が多いのは、顧客の資産運用をする際に、節税目的も兼ねて非営利組織への寄付を組み込んでいるからで、ガイドスターのサイトはこうした情報源としても有用となっている。
 
フィランソロピック・リサーチの沿革と財源
さて、ガイドスターを運営しているのは、フィランソロピック・リサーチ(PRI)というNPOで、ガイドスターの運営を目的に1994年に設立された。もともと私(シュミット)は、多国籍企業の財務畑で仕事をし、その後、非営利組織に転じ資金調達に従事するうちに、非営利セクターへの寄付を促進するには、個別の非営利組織に関する信頼性の高い情報の開示が必要であり、情報開示の仕組みさえあれば非営利組織にとっても効率的に資金を集めることができるのではないか、と認識を持つようになった。そこで1994年にガイドスターを立ち上げたわけである。開始して以来、徐々にコンテンツ数を増やしていったが、最初のうちは個人の資産を提供していたし、報酬はゼロの年もあった。

8年たった現在、職員を40名抱え、年間支出約600万ドルの規模にまで何とか成長した。600万ドルのうち最も大きいのが、デジタル化の経費で、200万ドル程度である。デジタル化のためのキーパンチは外部委託しているが、これには60名程度が従事している。600万ドルには新規事業の開発なども含まれているので、ウェブサイトの維持だけを考えれば年間430万ドル程度の経費で運営できるだろうと思う。この8年間で1700万ドルの経費を費やした。しかし、現在日本で同じ事をしても、8年間のIT技術の進歩と、日本の非営利組織の数が米国より少ないことを考えれば、1700万ドルまではかからないだろうと思われる。

収入に関しては、主な収入源は財団の助成金である。2001年度は1600万ドルの助成金収入があった。600万ドルの支出に対して収入が異常に多いと思われるかもしれないが、これは、2001年秋に、米国の主要な9財団のコンソーシウムから共同助成を得られることになったからである。実は2001年夏に、PRIは財政的に存亡の危機に立たされていた。8月30日には、理事会が、2週間以内に必要財源が確保されなければウェブサイトの運営を中止する、という決定を打ち出していた。状況を変えたのは9月11日の同時多発テロだった。米国中のドナーが寄付先を求めて情報を探す中、ガイドスターを中止するわけにはいかなくなった。ガイドスターは財政逼迫の中で運営を続け、情報を提供し、アメリカのフィランソロピーを支えた。10月に入り、前に述べたように9財団からの共同助成が決定し、2年間の財政難に終止符がうたれたわけである。この歴史的とも言える1200万ドルの共同助成は、ガイドスターが組織としてキャパシティを構築するリソースを与え、財政的に持続可能になるよう自己収入源を開発する時間を与えてくれるものであった。

現在では、助成金収入のほかに、有料情報のサブスクリプション、他機関へのライセンス契約などの事業収入が180万ドルまでに達するようになってきた。これは4年以内に500万ドル程度まで拡大したいと思っている。IRSからは、前に述べたように、基本サービスには料金を徴収しないことという要請があるので、付加価値をつけた情報を有料で提供することが収入源となる。
 
財務分析をどう利用するか
ガイドスターの財務分析をどう利用するかについて一つの例をお話しよう。一般に評価機関や政府が非営利組織を財政効率性で評価する場合、事業費比率(総経費に占める事業費支出の割合)の適正値は75%というのが通説となっている。では、75%以下はだめな団体なのだろうか?管理費やファンドレイジングのコストがかかり過ぎていて効率的でないと評価を下してしまってよいのだろうか?確かに75%という数字は全米の組織を一律に財務分析をした際の平均値としては説得力があるように思える。しかし全国一律ではなく同分野のNPOや同じ形態のNPO同士との比較をしないと妥当ではないのではないだろうか。たとえば、ある美術館の財務分析をして事業費比率が72%と出たとしても、美術館というサブグループ内での比較、さらに、その近隣地域の美術館というさらに小さいサブグループの比較で見ると、72%という数字は決して低くないことがわかる。また同じサブグループ内の組織であっても、サービス提供型の組織とアドボカシー型の組織はおのずと財政構造が変わってくるのだから、事業タイプの異なる組織同士を比べることも妥当ではないということがお分かりいただけるだろう。ガイドスターの財務分析を使えば、活動分野、規模、地理、事業のタイプ、成長率、設立してからの年月など様々なサブグループ内での平均値、分布などがわかり、自由に比較することによって非営利組織をより適切に評価できることができるのである。
 
評価の指標はあいまい 
非営利組織のエフェクティブネス(効果性)をはかる汎用的な基準はない。非営利組織は複雑で多様で、かつそれを評価する個人の関心や価値観も多様だからである。評価のための様々な方法論があるが、いずれも曖昧なものでしかない。財政が安定している組織か、それとも安定させようと努力している組織か?特定の受益者を対象にしたものかコミュニティ一般を対象としているのか?財源が多様か、あるいは純粋に寄付で成り立っているのか?緊急のニーズに対応するものか長期的な視野の仕事か?直接的なサービスの提供を求めるのか、研究や教育を目的とするのか?地元、地域、国、あるいは国際的いずれのレベルのニーズに応える活動か?そうした指標にさらに、個々人に応じた係数を加味することになる。ある人は、受益対象に重きをおき、財政効率性はあまり問わないかもしれない。ある人は全く逆の係数をあてはめるかもしれない。寄付をする側は、自分の価値観に合致する組織を自分の力で見分けなければならない。そのためにはあらかじめ評価を加えない、できるだけ生の形の情報が必要なのである。ガイドスターの提供する情報は、個人や助成機関が懸命な判断をするために、そしてすべての非営利組織に自らの活動を情報提供し資金調達の機会を平等に与えるために有効な仕組みなのである。
 
英国でもサイト開設の計画
ガイドスターの特徴は、公的機関であるIRSに、NPOであるガイドスターが情報提供を働きかけて情報公開が実現したという経緯にある。セクターを越えたパートナーシップが効果的に働いた良い事例の一つであろう。現在、英国でもセクターを越えた協力関係のもとで、ガイドスターのような情報公開サイトを作ろうという計画が持ち上がっている。2ヶ月ほど前にロンドンへ行き、インスティテュート・オブ・フィランソロピー、チャリティ・コミッション、内務省、金融機関等との協議をおこなってきたところである。公的機関、研究機関、企業などセクターを越えたパートナーシップで英国版のNPO情報公開サイトが創られようとしている。米国内でライバルが出てくるのは余りうれしくないが、他の国で同様なサイトを作る動きは大歓迎だ。ガイドスターの支部を作ることは全く考えていない。その国のNPOが自分達で情報を集約し公開することが正当だと思うからだ。日本でもそのような動きがあれば、協力は惜しまないつもりである。
 
主要な質疑応答
−IRSはなぜ自らこうした情報公開をしないのだろうか?
IRSもNPOセクターの情報公開が必要であることは認識している。ただ、財源と人手がない。税務申告書は閲覧できるようにはしているが、IRSの税控除セクションは本当に少人数で、このセクションからの税収がないこともあり、申告書をデジタル化したりウェブサイトに掲載することは彼らの義務ではない。ガイドスターの持つ情報処理力が、それを助けている。だからIRSはガイドスターに協力して事業を支援してくれている。ガイドスターにとってIRSはパートナーといってよいだろう。

−詐欺や不正にはどう対処しているのか?
ガイドスターの目的は不正を暴くことではないから、不正を予防するための特別な措置は講じていない。それは政府機関やメディアのすることである。しかし、IRSのファイルに保管されていてはなかなか表面化しない不正も、ガイドスターによって情報が公開されることによって透明性が高まるということはあるだろう。

−同様な情報を提供する他のサイトと競合しないのか?
いまのところ競合はない。財団センターが、ガイドスターと同様にIRSから提供されたForm990PFという民間財団の税務申告書を公開しているが、これはグラントメーカーの情報であって、ガイドスターはNPOを中心とした情報であるので一種の棲み分けができている。営利企業がこうしたサイトをつくることは、どう考えても採算に合わないし、現在の米国の経済状態を考えると当面はあり得ないだろう。

−情報の精度を保つためにどのような努力をしているのか?
デジタル化にあたり、キーパンチは2人の人間が別々に行い、つき合わせて入力ミスを防いでいるほか、アルゴリズムを用いて確認しているのでほぼ100%正確だと言えると思う。情報の更新に関しては、Form990は毎年提出されるので、少なくとも年に一回は情報が更新されるし、住所の変更や役員の変更などの細かいことは、掲載されている団体が自分で変更できるようにもなっている。
以上

英文要旨

2002年7月
文責:(財)日本国際交流センター



バズ・シュミット氏略歴
バズ・シュミット(Buzz Schmidt)
フィランソロピック・リサーチ会長、チーフ・エグゼクティブ・オフィサー(CEO)

25年にわたり民間企業の財務部門と非営利組織の資金調達の仕事をした後、非営利セクターへの寄付を促進するには、個別の非営利組織に関する信頼性の高い情報の開示とアカウンタビリティの向上が必要であるとの認識から、1994年にフィランソロピック・リサーチ(Philanthropic Research, Inc., PRI)を設立し、NPOの情報を提供するデータベース「ガイドスター」を創設。IRS(米国内国歳入庁)に納税申告を提出している全米の95万団体のNPOの情報を提供している。 シュミット氏は、The Nonprofit Times誌のノンプロフィット・エグゼクティブ・オブ・ザ・イヤー(1999年)として、また2000年と2001年には、非営利セクターで最も影響のあった50人の一人に選ばれている。またタイム誌には、フィランソロピー界の7人のイノベーターの一人として取り上げられた(2001年11月5日号)。PRI以外にも数多くの非営利組織のアドバイザリー・ボードを務める。スタンフォード大学経営・教育大学院修了。