このたび、第5回ティファニー財団賞-日本の伝統文化と現代社会-(以下、ティファニー財団賞)の受賞団体が決定いたしました。

今回で5回目を迎えた本賞は、2012年2月20日から4月2日を募集期間として専門家および各地域の関係諸団体の方々からの推薦とともに広く一般からの公募を受付け、63件に上る応募をいただきました。事務局選考の後、当センターが委嘱する選考委員による審査を経て、受賞団体を次のとおり決定いたしました。受賞団体には、200万円の賞金とティファニー製トロフィーが授与されました。

ティファニー財団賞伝統文化大賞

公益財団法人 山本能楽堂 (大阪府大阪市)

山本能楽堂は1927年、能楽の普及と振興のために大阪市の中心部で設立され、80年以上の歴史を持つ組織である。長年、その活動は大阪の市民によって支えられ、最高水準の能楽の普及に努めてきた。能楽の単なる維持に留まらず、能楽を「現代に生きる魅力的な芸能」として位置づけ、地元民に豊かな伝統文化を鑑賞する機会を提供し、さらに現代アートの視点を取り入れた子どもへの教育普及活動や、ナイトカルチャー事業など、新たな観客、能楽の理解者の発掘に意欲的に取り組んでいる。活動を通じて大阪人の誇りや自信を喚起し、大阪の古典芸能の素晴らしさを国内のみならず世界に向けて発信する面でもリーダーシップを発揮している。能楽堂自体は戦災によって一度、焼失したが、1950年に再建され、2006年には国登録有形文化財に指定されている。

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ティファニー財団賞伝統文化振興賞

特定非営利活動法人 輪島土蔵文化研究会 (石川県輪島市)

能登半島地震で被災した輪島市で、現代的な感覚で土蔵の修復に取り組んでいるのが輪島土蔵文化研究会である。土蔵は湿度や温度を一定に保ち、輪島塗や日本酒醸造の重要な施設でもあったが、震災で被害を受けた土蔵は一年間に600棟が取り壊されるなど、地域の産業基盤にも影響を与えかねない状況となっていた。輪島土蔵文化研究会では、土蔵の被災状況と被害原因を細かく調査し、技術的な改良を検討し、修復を可能にする若手の左官職人を育成する取組みを行なっている。さらに修復した土蔵をパブリックスペースとして整備活用し、ギャラリーや交流ホールとして活用するなど、輪島において回遊性のある新たな街づくりへとつながる取り組みに発展している。

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授賞式

2012年10月4日、第5回ティファニー財団賞授賞式は、例年通り東京都港区の梅窓院において、各界の有識者、メディア関係者など150名を超える参加者が集い実施されました。授賞式では、最初に本授賞式のために来日したティファニー財団評議長フェルナンダ・ケロッグ氏の挨拶、続いて日本国際交流センター理事長渋澤健からの挨拶ののち、在日米国大使館のデイヴィッドソン広報・文化交流担当公使より祝辞をいただきました。


ティファニー財団評議長
フェルナンダ・ケロッグ氏

(公財)日本国際交流センター
理事長 渋澤 健

米国大使館広報・文化交流担当公使
マーク・J・デイヴィッドソン氏
授賞式では、ティファニー財団の活動とともに、各賞の最終選考に残った団体の紹介、そして今回の受賞団体の活動をビデオにより紹介いたしました。その後、受賞2団体にティファニー社製トロフィー、賞金200万円の目録が贈呈され、それぞれの団体から受賞の喜びと感謝の言葉が述べられました。


    山本章弘氏          水野雅男氏
大賞を受賞した山本能楽堂の代表理事で能楽師の山本章弘氏は、大阪は古い伝統文化を持つ町であるが、時代の流れとともに伝統文化が危機に瀕しているとのメッセージとともに、地元および多くの方々の理解と賛同によって活動を続けることができたと述べられました。一方、輪島土蔵文化研究会の理事長水野雅男氏からは、活動を開始した当初からティファニー財団賞を狙っていたとの話があり、この賞をとることができ本当に嬉しい、多くの仲間と喜びを分かち合いたいとスピーチをされました。


選考委員の南條史生氏(左)と日比野克彦氏(右)
表彰の後には選考委員より講評をいただき、選考委員長を務める南條氏は、継承、存続の問題を抱え危機的な状況にある伝統文化をあるがままに保存、維持するだけではなく、そのよさを保ちつつ新しいものへと創造することで次世代へとつなげる両団体の活動を評価し、地域社会に残る素晴らしい伝統文化を復興することの意義とともに、伝統文化を維持、発展させていく上でティファニー財団賞の重要性を改めて評価する等のコメントを述べられました。


講評

【伝統文化大賞】 公益財団法人 山本能楽堂

南條史生 森美術館館長 [選考委員長]

能は、その継承・存続の問題を抱えているが、山本能楽堂は、上演の時間帯を変え、外国語付きの公演を行い、あるいは「上方伝統芸能ナイト」などの新しい枠組みにはめ込み、見せ方を様々に工夫して教育普及の機会を拡大し、新たな観客を獲得して、能楽の新しい可能性を提示した。どのような伝統芸能でも、その重要な形式や精神は引き継ぎつつ、現代人の生活にマッチしたものに変化しなければ、現代社会が支える生きた伝統の継承にはつながらないだろう。その意味で、山本能楽堂の試みは、その提示の枠組みを工夫することによって、大きな効果を上げた。この創造的な手法は、他の伝統芸能、他の伝統工芸関係者にも多くの示唆を提供しうるものと考えられる。

隈研吾 建築家、東京大学教授

数多くの伝統芸能がある日本においても最古の芸能の一つに数えられる能楽だが、残念ながら現代においては一般生活から若干乖離してしまっているイメージがある。また、関西地区はいろいろな文化施設が閉館に追い込まれている現状があり、そういった状況においても、この山本能楽堂は地域に対して意欲的な取り組みを続けていることが評価できる。LED照明を取り入れた舞台演出など、伝統の中に新しい技術を取り入れた取り組みも評価に値し、是非今後もそういった挑戦を続けて行ってもらいたい。

田中優子 法政大学教授

日本全国に能楽堂があるが、演能者や能を好む人のためにだけ使われていることが多く、地元の人々と一緒に活用しているところはあまり無い。結果的に、能は難しいもの、というイメージを払拭できないでいる。しかし、山本能楽堂は、子供たちに身体から能を知ってもらう試みを続けてきた。面、能装束、謡、仕舞など、能では多くの身体経験が可能で、それが能に近づくもっとも効果的な方法である。ただ、経費や指導の困難さから実現は簡単なことではない。山本能楽堂はそのメソッドを積み重ね、小学生から高校生まで、さらに大人でも気軽に体験できる仕組みを作り上げた。この受賞が指導者を確保しつつ活動を継続し、さらに全国の能楽堂へと拡げてゆく契機となり、能が単なる古典ではなく新しい表現方法になることを期待している。

日比野克彦 アーティスト、東京藝術大学教授

日本には、その土地ごとその時代ごとのしきたりがあり、文化がある。そうしたなかで継承されてきた文化は、変化の時代の中で厳しい時代を迎えている。山本能楽堂の活動は、現代にマッチした活動を展開することで新しい協力者を得て力をつけている。子どもに対する能楽教育など先進的な活動が評価できる。

【伝統文化振興賞】 特定非営利活動法人 輪島土蔵文化研究会

南條史生 森美術館館長 [選考委員長]

能登半島に多数残る土蔵が能登半島地震で被災したことから、同研究会はこれを調査研究し、それを修復する過程で左官屋の技術継承を行い、さらにそのための資金調達のシステムを構築し、修復された土蔵の新たな利用法の創出など、ハード、ソフト面での一貫した流れを作り出した。特にこの地域では、有名な伝統工芸の漆器作りと土蔵の関係は深い。その結果、土蔵修復、保存の試みは、漆器作りの保存、再生の問題にも貢献することになった。そして土蔵による町並みの維持は観光資源としても重要になるだろう。すでに東北の土蔵文化保存関係者とも連携をとっているが、今後こうした技法が、他の街でも参考になることを期待したい。

隈研吾 建築家、東京大学教授

輪島地域における代表的な産業を守りつつ、その機会を利用して左官職人を育てるという2つの目的が上手く噛み合った取り組みで、大変評価できる事例である。特に、能登半島地震という伝統工芸に対する大きな危機を単なる危機と捉えず、チャンスに変えたことは大きく評価できる。昨年の東日本大震災においても、地震・津波の影響で多くの建物が被害を受け、東北の各地域にあった地場産業が大きな痛手を受けた。一般的なボランティア活動も必要ではあるが、専門性を生かしたこの取り組みを端緒として、東北地方等の他地域にも同様の活動が広がることを期待する。

田中優子 法政大学教授

輪島の漆工芸にはますます発展して欲しいと祈ってきた。しかし、ほとんどの伝統工芸が単独では成り立たないように、輪島にも土蔵や地域を取り巻く環境、地域の活気、訪れて経済的な活性を与える人々、そして世界の注目が必要である。土蔵文化研究会の試みは、風土に合った建築や工芸の重要性を再認識させてくれた。全国一律の建築が覆っている日本で、建物はその土地の特徴を伝えるもっとも重要な施設であり景観である。震災によって多くの土蔵が壊れたが、土蔵文化研究会はそのことを逆手にとって、土蔵に新たな価値を見出し、また、多くの人をその活動に巻き込むことによって、人々にその価値を気付かせている。その活動は、災害に見舞われた多くの町のモデルになるだろう。

日比野克彦 アーティスト、東京藝術大学教授

自分自身、能登半島を船で一周したが、日本的な風景が続き、土蔵を含め特徴的な街並が印象的だった。土蔵は地域の産業と結びつくとともに、輪島の独特の景観にとって欠くことにできないものである。土蔵を維持するために左官の技術の維持に努めている点も重要である。