公開シンポジウム
日本の国際戦略としての"人間の安全保障"―洞爺湖サミットに向けた提案

日時:2008年5月25日(日)13時〜17時
場所:艮陵会館記念ホール
主催:東北大学ヒューマンセキュリティ連携国際教育プログラム
協力:(財)日本国際交流センター、世界基金支援日本委員会
後援:宮城県医師会、国際協力機構(JICA)、東北国際保健研究会、河北新報社


基調講演「人間の安全保障と日本の役割―洞爺湖サミットに向けた提案」
武見 敬三

前参議院議員、ハーバード大学公衆衛生大学院リサーチ・フェロー、
(財)日本国際交流センターシニア・フェロー

はじめに

本日は「日本の国際戦略としての人間の安全保障 洞爺湖サミットに向けた提案」と題した公開シンポジウムが、このような形で開催されましたことに心からお喜びを申し上げるとともに、基調報告をさせていただく機会をいただきましたことを御礼申し上げたいと思います。また、井上総長はじめ伊東潤造宮城県医師会長におかれましては、ご多忙の中にご隣席をいただき、心から御礼を申し上げる次第でございます。

人間の安全保障概念の登場

今、植木先生からもお話がありました、この「人間の安全保障」という考え方は、1994年に国連開発計画、UNDPが人間開発報告書の中で初めて使った言葉でございます。この考え方というものは、従来の国家安全保障という枠組みだけでは、国際社会がもはや、それぞれの国の中の国民の命さえをも守れなくなるような状況に入り、そしてグローバライゼーションと言われる、人、物、情報が国境を超えて大きく行き交う状況下においては、従来の国家安全保障のみならず、新たな安全保障の概念として人間の安全保障という考え方が必要になってきたという認識に基づいて、改めて提示された新しい安全保障の概念でございました。

この考え方は国家を基本とする安全保障と異なり、それぞれ個々の人間にまで安全保障の対象を縮小し、個々の人間の安全をいかに確保するのか。そして、そのためにさまざまな要素、すなわち政治や経済、社会、文化、教育、これらを総合的に勘案して包括的に個々の人間の安全を確保するという考え方が、当初、このUNDPを通じて明らかにされたわけであります。

我が国主導の概念整備

この考え方が多く議論される過程で、わが国では小渕内閣が発足しました。このとき、私はたまたま外務政務次官を拝命いたしまして、小渕内閣の外交政策に直接かかわることになりました。ご記憶の方もあるかと思いますが、当時小渕総理ご自身は、対人地雷にかかわる国際条約の批准に大変努力をされていました。この対人地雷の条約を批准するに際して、その裏付けとなる理論的な枠組みはどのようなものが適切かという議論になったときに、私どもから、人間の安全保障という考え方がその裏付けとなる概念として最も適切であろうという提言をし、それが政府として受け入れられ、その考え方がまさにわが国政府の対外的な政策を考えるときの新たな柱となった、という経緯がございます。

通常、さまざまな内閣が新たな考え方を提示するわけでありますが、おおよそ次の内閣になると全く違った他の考え方が政策として提言されるということが、わが国の現実でありました。しかし、こと、この人間の安全保障という考え方に関しましては、その後の五つの歴代の内閣においても引き続き堅持され、そしてわが国のODA大綱というものを10年ぶりに修正するときに、その前文の中で改めてわが国のODA政策の中心概念として位置付けられることになりました。

ただ問題は、UNDPによって新たにとらえられた人間の安全保障という考え方も、まだ政策概念としては十分に整備されたものではございませんでした。そこで改めて日本政府は、この人間の安全保障という概念をより政策概念として活用し得るための研究と調査、これを集中的に行うことが必要だという認識を持つに至りました。そして、ちょうどミレニアムサミットがニューヨークで開かれたときに、その当時の森総理の下で、改めて国連で人間の安全保障の概念を整備するための人間の安全保障のための国際委員会を創設する提案がなされました。また同時に、国連に既に創設されておりました人間の安全保障基金というものをさらに1億ドル相当に充実するということも、その時に表明された経緯がございます。

その結果2001年に、人間の安全保障委員会というものが当時の国連のコフィー・アナン事務総長との連携の下で発足し、わが国から緒方貞子元国連難民高等弁務官と、アジアで初めてノーベル経済学賞を受賞されたアマルティア・セン教授がこの共同議長となり、人間の安全保障委員会がその報告書を取りまとめ、2003年にコフィー・アナン事務総長に提示されたという経緯がございます。その中で改めて人間の安全保障という概念について、その整備がなされました。それが今日のわが国においても活用されている、人間の安全保障という考え方になります。

おおよそどのようなものであるかといえば、従来と同様、個々の人間の安全というものに焦点を当てているということに変わりはございませんが、改めてそれを個々の人間というもののみならず、コミュニティを単位として、そこに住んでいる人々を対象とした新たな安全保障の概念として再発足をいたします。そしてそこで求められることは、いわゆるフリーダム・フロム・フェア、フリーダム・フロム・ウォントということで、コフィー・アナン事務総長も提案していた、それぞれの個々の人間が自ら教育等を通じてその能力を拡充するとともに、社会、個々人が改めてより多くの人生の選択肢を開拓し、より充実した生活を確保することができるように保障する概念として、その定義が新たにされたことになります。これは言うなれば、個々の人間にとっての自由の拡大ということを安全保障の中で確保しようとする、極めて積極的な定義がこの安全保障委員会の中ではなされたわけであります。そして、この考え方というものを実現していくための基本的な概念の枠組みとして、二つ提示されました。その第一は、ヒューマン・エンパワメント。それはまさに、教育等を通じて個々の人間の能力を開発するところにあります。

しかし、これだけでは個々の人間は自らより充実した人生を得るための選択肢を拡大することはできません。コミュニティにおける社会的な秩序の確保、また、こういった人々が生存していくために必要な保健医療サービスの提供、そしてまた同時に、充実した環境の整備、これらが、いずれも包括的に人々の安全を確保するという観点から総合的に検討されていくことが必要になり、このヒューマン・エンパワメントに加えてヒューマン・プロテクションという考え方が組み合わされることになりました。これによって、人間の安全保障という概念構成がおおよそ整備されたということになります。

人間の安全保障に基づく沖縄感染症イニシアティブ

そして、この考え方の中でも特に人間の生存に直結する「健康」というものは、人間の安全保障の各課題の中でもその中核的な位置付けがされてきているわけであります。それがまさに、沖縄サミットのときにもわが国の感染症にかかわる提案となったゆえんであります。ご記憶の方もあると思いますが、8年前の沖縄サミットというのは、まさにエイズ、結核、マラリア、特にエイズにかかわる脅威というものが幅広く広がり、人類社会がこれにどのように対応し得るだろうかという脅威感がまさに広がっていた時期にあったわけであります。

この時期にわが国は、人間の安全保障の考え方に基づいて、これらHIVエイズ、結核、マラリアにかかわる感染症のイニシアチブというものを提案いたしました。そしてこの提案に基づいて、サミット終結後もそのフォローアップとして改めて保健専門家による感染症の会議が開催され、これらがいずれも大きなきっかけとなって感染症にかかわる国際社会の取り組みが一気に進み、エイズを含む三大感染症にかかわる世界基金と呼ばれるグローバルファンドが発足し、そしてエイズにかかわるさまざまな取り組みが一気に進んだという経緯があります。このイニシアティブの特徴は、これらのアプローチがいずれも感染症主体のアプローチであったことであります。これらによって確実に多くの人々の命が救われるようになり、そしてエイズにかかわるさまざまな医薬品の新たな開発が進み、エイズが改めて慢性疾患という観点で位置付けられるほどに、その新たな効能効果が期待し得る治療薬までもが出現するようになったことはご案内のとおりであります。

洞爺湖保健システム強化イニシアティブ

今日、このような感染症中心のアプローチに加えて国際社会全体を見たときに、医療の提供体制、保健医療のシステム全体を改めて評価することの必要性が認められるようになってきたわけであります。すなわち、さまざまな医薬品等は開発されたものの、例えば途上国にそれがジェネリックで極めて安い価格でも提供されるようになりました。しかし、それらが実際に真に役に立つためには、そのための医療の提供体制が整備され、保健医療の専門家の診断、服薬指導、こういったことを着実に行って初めて治療を必要とする人々の健康の改善につながり、アウトカムとしてそれが確保できるようになるわけであります。

こうした医薬品等の確保はできるようになったところが相当あるわけでありますが、しかしながら、まだ多くの途上国、特に地方のコミュニティ等に対しては十分な医療の提供体制が整わないために、医薬品等が十分に活用されずに残ってしまっているということが現実の課題となりました。それは実際に医師・看護師不足、これはわが国でも深刻ではありますけれども、途上国ではさらに深刻な事態にあることはご案内のとおりであります。アフリカ等の場合には、さらにそれに加えて医師・看護師の頭脳流出、即ちブレイン・ドレインと言われる、外国にそれぞれの医療の専門家が行ってしまうという事態が、こうした医療の提供体制を整備するときの大きな問題点として出現するようになってきました。

実は私は3月にザンビアという国を訪問して、その医療の提供体制の視察をしてきました。ザンビアには医学校は一つだけしかございません。その医学校では既に約2,500名の卒業生がおり、医師として社会で活躍できるようになっているわけであります。しかしそのザンビアにおいて、実際に国内に残って医療に従事している医師の数は、何と650名ほどでしかありませんでした。残りの2,000名近くは南アフリカやヨーロッパ大陸の先進国、さらに米国といったところに移住をしてしまい、現実には、そこでより豊かな生活をしているより豊かな人々のための医療に従事をしているという状況にあるわけであります。

すなわち、人間の安全保障という考え方からすれば、ヒューマン・エンパワメントという観点からは提供者側も受け入れ側もこうした医学校を創設し、そこに技術協力し、そしてより優れた医師の養成に当たってきたことの成果は、2,500名の医師の養成という形で見事に開花したわけであります。しかしながら、医師や看護師が自国に残って引き続き医療に従事するという観点から、リテンションと呼ばれる、まさに国内に医師・看護師を保持するためのヒューマン・セキュリティの考え方からいえば、プロテクションにかかわる政策が伴わなかったために、その政策の効果は実際に当初予定したようには上がらなかったという事実があるわけであります。したがって、このような観点から、改めてヒューマン・エンパワメントとプロテクションという考え方が組み合わさって、こうした保健医療にかかわる国際的な取り組みも行われなければその効果が期待できないという事態に、今、国際社会は直面するようになりました。

そして、そのためにはどのような政策が必要になってくるかといえば、それぞれの国内における医師に対するさまざまな施策。外国に行けば4倍も5倍も多くの収入が得られる。また国内では十分な医療機器や医薬品が整っていないために、せっかく大学でいい教育を受けたとしても、それを実践する場に恵まれない。そのためにも、海外で医師として充実した仕事をしたほうが自分も生きがいを感じられるというような事態がさまざまに重なって、このような頭脳流出という傾向が現実に途上国の中で起きてしまっているわけであります。そういたしますと、これらをきちんとリテンションしていくための施策というものは、保健医療の政策のみならず、改めてそれぞれの移住等にかかわる政策や、あるいはその財源確保等にかかわる施策が組み合わさって、これらの医師・看護師の確保というものが現実に可能となってくるわけであります。それらの各政策分野を横断したクロスセクトラルな政策をどのように提供者側と受け入れ側が協力して組み立てていったらよいか、そうしたことがまさに今日、議論の対象となり、3月にはアフリカのカンパラにおいて、こうした保健医療従事者にかかわる大きな世界大会が開かれたという経緯がございます。

そして今日、わが国の提案に基づき、洞爺湖サミットに先駆けてシェルパのもとに保健医療専門家会合というものが設置されることになり、既に2回、保健専門家会合が開かれました。こうして、疾患別の取り組みの充実強化に加えて保健システム強化のための取り組みが改めて議論されるようになり、その一つの大きな課題として、保健医療従事者にかかわる養成とリテンションについての議論がなされるようになってきているわけであります。第3回目の保健医療の専門家会合は6月11日に東京で開かれるわけでありますが、これらの議論の取りまとめが行われますと、いよいよ7月のサミットにおいてそれが各指導者によって総括され、共同コミュニケあるいは保健専門家会合の報告書として具体的な数値目標等を含めて、その政策が取りまとめられるという段階に今、入ってきたわけであります。

こうした中で、私も国会議員を12年間やらせていただき、政策を策定するときの難しさも随分経験させていただきました。多くの政治家にとって、自国の国民の貴重な税から得たお金、これはまさに国民からお借りした大変大切なお金であります。それをどのような目的のために使うかを国民にいかに説明するかというのは、常に政治家にとって最も難しい課題であります。例えば国際保健の分野で感染症ということで、HIVエイズやマラリア、結核という病名であれば、その問題に取り組むことの必要性を国民お一人お一人に説明するのは比較的容易であります。しかし、「保健システム強化というような、保健医療の提供体制全般にかかわる強化が重要だ」というような言い方をしたとしても、それはあまりにも抽象的で、多くの国民の皆様方に理解をしていただくことは甚だ難しい。したがって、今まで政策決定者たちはみんなうっすらとわかっていても、あえて言わなかった。

そして、まさにそうした状況下において洞爺湖サミットが開かれることになり、わが国の政策の中枢にいる総理をはじめとするさまざまな関連する閣僚、これは外務大臣と厚生労働大臣と財務大臣でありますが、いずれもこの考え方の重要性を理解してくださって、システム強化という観点からの取り組みを、洞爺湖サミットにおける日本の取り組みの一つの大きな柱とするということになりました。もしこれがうまく成功するとすれば、改めて日本は洞爺湖サミットのときに、沖縄サミットに続き、この国際保健の分野において非常に大きな役割を果たすことができるようになるわけであります。これは、わが国が改めて人間の安全保障という考え方に基づいて、国際社会においてより有意義な役割を果たす、そのまさに端緒となることは明確であります。

我が国にとっての人間の安全保障の意義

国内政治という観点から人間の安全保障の重要性について述べさせていただきたいと思います。わが国の中には戦後、まさに第二次世界大戦の経験を踏まえた平和主義というものが定着しておりました。300万人の尊い命が失われ、アジアの多くの無辜(むこ)の人たちが現実に多くの軍事作戦の犠牲となられたわけであります。こうした経験を踏まえて、その経験をした多くの世代の方々を中心として、わが国には平和主義というものが定着しておりました。

しかし、こうした反戦論的な平和主義というものは、その世代が実際にお年を召していく過程の中で、確実に今、その力を失おうとしているわけであります。そういうときに改めて未来志向の、より実践的な平和主義というものを確立することが、わが国が国際社会の中における責任ある国家として、そして社会の基本理念としてまさに必要とする時代状況に、わが国は入っているわけであります。そういうときに、この人間の安全保障という考え方は、まさに未来志向の、わが国の国際社会における取り組みを推進していく基本理念として最も適切であるというだけではなく、まさにわが国国民一人一人がより積極的な未来志向の平和主義というものを身に付ける上においても、最もふさわしい政策概念として認識できるのではないかと私は考えるわけであります。

そうした観点から、人間の安全保障という考え方は、実は着実に幅広くわが国の中でも議論されるようになってきているわけであります。特にこの東北大学におきましては、人間の安全保障にかかわる国際連携プログラムなども創設されて、まさに時代に先駆けて積極的にこうした活動をしてこられていることに対して、私は心から敬意を表したいと思います。そしてこうした考え方は、今、まさに国際社会の中で幅広く受け入れられようとしております。

人間の安全保障の国際的広がり

実は私は、昨年の7月の参議院選挙で落選いたしました。次点ということで、いつ繰り上げ当選になるかわからないという極めて微妙な立場におかれているわけであります。誠に私自身の不徳の致すところで、伊東潤造先生には大変ご迷惑をおかけして申し訳なかったわけでありますが、その過程で私自身、改めてこの国際保健分野で自分の一つの新たな専門的仕事をしようと志し、現在はハーバード大学の公衆衛生大学院の研究員としてその仕事に当たっているわけであります。

しかし、改めて専門家の多くの議論をそこで経験していく過程で、コミュニティというものを単位とした新しい政策の組み立て方に対する関心が、今、この分野で非常に広がってきているということを申し上げておきたいと思います。それは、おおよそ欧米中心の考え方の中ではトップダウンの提供者の考え方というものが、その中枢を占めてきているわけであります。このような場合に、コミュニティ、そしてそこにいる人々というのは、政策をまさに実施するときのエンドポイントにいる人々、そして単位ということになるわけであります。他方、わが国の中でよくあるようなボトムアップで政策を立案するときには、このコミュニティとそこにいる人々というのは、まさに政策立案のスタートポイントに位置付けられてくることになるわけであります。

実際に、これから多くの保健医療の政策を組み立てていくときには、まさにこのトップダウンとボトムアップの政策をいかに有機的に結合し、新たな政策のシステム体系をつくるかということが求められてくることになるわけであります。その一つの結節点を構成するコミュニティとそこに住む人々というものが、まさにこうした新たなトップダウンとボトムアップの政策を再構築し結合していくときの要として位置付けられることになりました。皆様方もお気付きになると思いますけれども、こうした政策を実行していくときに不可欠の存在が市民社会であります。そしてこれからは、ただ単に政府や国際機関だけがこうした任に当たるのではとても対応できないという時局になり、シビル・ソサエティの役割、NGO等の役割というものが、実はものすごく大きく今、認識されるようになってきました。

二国間・多国間・市民社会の三次元外交の展開

私が実際に国際政治の勉強を始めたころは、二国間外交というものがその大きな柱でありました。それがさらに、国連や国際機関を舞台としたさまざまな多国間外交が重要だと言われるようになり、そして二国間・多国間、即ちバイ・マルチの組み合わせによって外交というものは打ち立てられていくのだということになっておりました。しかし今、国際社会には新たにもう一つの大きな柱が構築されるようになりました。それは政府もまた同様、市民社会と連携し、NGOとも連携したNGOネットワーキング外交という新たな柱を構築することによって初めて、国際保健も含めた、国境を越えた新たな共通課題に対処し得る時代になってきました。

多くの先進諸国の諸政府がいずれもこれに気が付いて、三つの次元から外交を展開するようになってきております。そしてそれによって初めて、コミュニティという単位からなる政策をもまたきちんと構築できるという体制に今、まさになろうとしているわけであります。そして興味深いことは、国際政治全般を見たときに、このようなグローバライゼーションのもとで多くの国境を越えた共通課題が必然的に今、まさに増えてきている。環境破壊、気候温暖化、エネルギー価格・食料価格の高騰のみならず、国際保健も含めて、さまざまな共通課題が増えていく過程の中で、それぞれの政府もまた同様に、この三つの次元から組み合わされた新たな外交を展開して、それぞれこの共通の課題を解決する能力がどれほどあるかということを競う時代に、21世紀は入ってまいりました。そして、それぞれ規模は小さくても、こうした国際社会共通の課題を解決することにどれだけその能力を発揮することができるかが、21世紀におけるその国の国際社会における影響力をもより強化するという時代状況になってきたわけであります。

全員参加型アプローチとしての非公式ワーキング・グループ

このような観点からも、多くの先進諸国は新たな政策にかかわるパラダイムシフトを実施し、こうした共通の課題に取り組むという方針に転換する状況になってまいりました。わが国もまたその例外ではございません。今回の洞爺湖サミットを控えて、政府の中で改めて非公式にこうした事態に対処するためのワーキンググループが組織されました。それは健康にかかわる三つの役所、すなわち世界銀行であれば財務省国際金融局、外務省であれば国際協力局、そして厚生労働省であれば国際課が、それぞれ責任者を出してそのワーキンググループに入り、かつまた援助実施機関であるJBICやJICAの代表者も入り、そして学識経験者、さらにはNGOの代表者も加わって全員参加型でこのワーキンググループが組織され、今回、洞爺湖サミットに係るさまざまな提案の準備を行うということになりました。不肖私がこのワーキンググループの主査を命じられ、その任に当たり仕事をしてきているわけでありますが、それを実際にやりながら、つくづくこの国際社会が今、大きく変容しつつあることを体験しているところでもあります。

いずれにせよ、このような大きな変革期において、新しい発想を受け止めるための基盤が人間の安全保障という考え方にあるのだということは、私は自信をもって言うことができます。そしてこの考え方が今まさに多くの国際社会の関係者の間で幅広く認識され、そのことがまた日本に対する信頼と評価を高める大きな効果をも持つことになっているということを、大きな声で申し上げておきたいと思います。

本日このような貴重な機会をいただいたことに心から御礼申し上げ、私の取りあえずの基調の報告とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。