日英21世紀委員会は、1984年に中曽根康弘首相とマーガレット・サッチャー首相との間で合意され、翌85年に正式に設置された民間レベルの政策対話フォーラム。年1回の合同会議において両国委員が提言をまとめ、それぞれの首相に報告している。

ステートメント

討議要約

日英21世紀委員会第30回合同会議は、2013年5月3日から5日にかけて、英国ウェスト・サセックス州のウィストン・ハウスで開催された。今回の会議では、英国側座長ハワード卿と日本側座長塩崎恭久衆議院議員が共同議長を務めた。

今回の合同会議には、両国の国会議員を始め、経済界、言論界、学界、政策研究機関代表、さらには両国大使を含む、英国側22名、日本側18名が参加した。

ロンドン・プログラム

5月2日、日本側メンバーはハワード卿の案内でウィリアム・ヘイグ外相を表敬訪問し、日英関係と今後の二国間協力について意見交換を行った。

同日、合同会議に先立つ前哨戦として、両国メンバーに加えて企業代表、その他のゲストの参加を得てジャパン・ソサエティおよび英国日本商工会議所主催の昼食会が、カヴァルリー&ガーズ・クラブで開催された。

同日夕刻には、日本側メンバーのために外務連邦省主催レセプションが開かれ、サイモン・フレーザー外務事務次官が歓迎の挨拶を行った。その後、日本側メンバーは林景一駐英大使主催の夕食会に招かれた。

ウィストン・ハウスにおける合同会議

開会の挨拶の中で、英国側座長ハワード卿は、合同会議が30回目を迎えたことの意義に言及し、1984年に、中曽根康弘・マーガレット・サッチャー首脳会談の結果、日英2000年委員会として発足した経緯を振り返った。両首相とも、この委員会に与えられた重要な使命について発言しているが、特にサッチャー首相はこの委員会が「新しい領域を模索し、最も実り多い二国間協力の方向性を見出した上で、決然とした行動がもたらし得る広がりや利点について、広く世に伝える」可能性を持つことを強調した。

一方、塩崎恭久日本側座長は、各合同会議の終わりには、必ず具体的な提言を行うという、本委員会発足当初から具体的な行動を志向してきたことを強調した。

これまで本委員会の日本側事務局として、公益財団法人日本国際交流センターが果たしてきた役割に対して謝意が述べられ、同時に同センター創設者、故山本正氏を引継ぎ、2012年6月に理事長に就任した渋澤健氏に対し、歓迎の意が述べられた。

セッション1:日本の現状と課題-国内政治情勢と経済の展望

第1セッションでは、2012年12月の衆議院選挙と、その結果としての政権交代以降、日本が抱えている政治的、経済的課題について議論した。この選挙で自由民主党は地すべり的勝利をおさめ、公明党との連立政権を誕生させたが、党内の雰囲気は、勝利の美酒に酔いしれるには程遠く、有権者の信頼を取り戻し、経済を蘇らせる最後のチャンスであるとの認識を示した。安倍首相が、最近の歴代首相よりも長期に亘る政権を担うためには、党内の結束が最重要であるとみられている。こうした考え方のもと、自民党は、当初党員の大半が反対を表明していた環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉への参加に関し、どうにか合意をとりつけることに成功した。他方、民主党は、今回の総選挙での敗北は、例えば消費税を引き上げない等、政権を勝ち取った前回2009年の総選挙時のマニフェストに謳われていた様々な公約を守らなかったことに敗因があると考えている。民主党は、今後の国政選挙において有権者が現政権に対する代替的選択肢を持てるよう、必ずや政治の表舞台にカムバックし、自民党に対する有力な対抗勢力に返り咲くことを決意している。そのためには、野党勢力の再編成が鍵を握っているとみられている。

例えば、日本に適した持続的成長戦略や憲法改正問題等、今夏に予定されている参議院選挙後に検討されるべき政治的、経済的課題が山積している。こうした課題への対応と同時に、高齢化・少子化問題や膨らむ一方の債務問題、さらには長引くデフレ等の問題にも対処していかなければならない。加えて、TPPは、単に経済や貿易制度の問題としてではなく、戦略的地域アーキテクチャーの問題と捉え、これに参加するには不可欠な国内農業改革にも着手しなければならない。日本を取り巻く地域には領土を巡る論争が絶えず、これが地域の平和と安定を脅かしていることや、安倍首相がアジア近隣諸国との歴史問題を見直す可能性を示唆していることなどに対し、出席者から懸念が表明された。

セッション2:英国の現状と課題-国内政治情勢と経済の展望

第2セッションでは、英国の政治・経済情勢の現状と今後の展望について議論した。最近実施された地方選挙の結果は、有権者が既存の政党や、経済引き締め策に不満を持っていることを反映したものである。極小政党の台頭は、移民問題や英国の経済状況に対する懸念を背景にしている。この政治状況の分散化により、2015年に予定されている総選挙の結果を予測することは困難になっている。

ユーロ圏の問題は、緊迫の極に達しているが、来年その政策の再修正が行われ、圏内の弱小経済が成長促進のための構造改革に拍車をかけることになれば、状況が緩和される可能性がある。しかし、新たにユーロ圏に加盟した諸国から、英国に移民の波が押し寄せるであろうことが予想され、そこから多くの問題が発生する可能性がある。

欧州との関係が、依然として英国の政治課題の中で中心的位置を占めるが、この欧州との関係が投資家の間で不安感を生じさせる結果となっている。EUからの離脱に関する国民投票が行われる可能性があり、これがEU単一市場に対する現在のアクセスを維持することを望んでいる在英日本企業にとって、特に大きな懸念材料となっている。

セッション3:緊縮または停滞か?日本の「失われた二十年」からの教訓

続く第3セッションでは、日本のいわゆる「失われた20年」が生じた要因や、この間の経済政策の政治的、経済的背景が議論された。この長期に亘る経済成長の停滞に関しては、これまで、財政・金融刺激策が不十分で経済の底上げが出来ず、そのためデフレと需要の収縮が起こったという説明が一般的であった。しかし、経済成長が鈍化したのは、実はデモグラフィックな要因によるもので、しかもデフレには消極的影響だけでなく、ある種、積極的な側面もあったとみることも出来る。実際、この期間の日本の生産性向上率は、フランスやドイツを凌いでいた。

日本ではGDPの割合に占めるこれまでの企業投資が過剰であったことと、減価償却超過額が大きいことから企業に構造的なキャッシュフロー余剰が生じている。企業の余剰キャッシュを縮小させるためには、企業がこれまで以上に高い配当金を支払う必要がある。しかし現在は、減価償却費を大きくすることにより配当金の増額を抑制している。したがって、日本としては、減価償却費を縮小し、法人税率を引き下げるという、法人税改革を検討すべき時期に来ているのかも知れない。

セッション4:気候変動とエネルギー政策

第4セッションでは、日英のエネルギー政策について、まず、両国の原子力政策に焦点を当て、1956年の最初のコールダーホール原子力発電所(セラフィールド市)建設から、2011年の福島第一原子力発電所事故に至る原子力発電の歴史を振り返った。エネルギー産業における技術の進歩や、エネルギー需要の動向、さらには、インターネットの発展がもたらす「過剰につながっている世界」という状況下で、一般市民の認識というのは、原子力発電所の安全性と効率性を監視し続けることが、依然としてエネルギー供給と効率性に関する議論の中核を占めるということでもあった。

福島第一原発事故以降、リスク評価と災害管理が最重要課題となっている。政府が安全性に対する懸念に対処し、原子力産業や電力会社等のムラ思考から独立したモニタリングの枠組みを設置できるかどうかが、日本の原子力産業の将来を左右することになる。政府の各部局が専門分野の科学者にアクセスするための独立したチャンネルを提供している「首席科学顧問」という英国の制度は、日本にとってもヒントになるかも知れない。

英国は、原子力に関しては、発電所新設から既存原子炉の使用延長、廃炉、さらには使用済み核燃料の再処理に至る様々な局面で、長い経験を有しているので、ここにも日英間協力を推進する可能性がある。すでにいくつか進展がみられてはいるものの、日本の英国エネルギー産業部門に対する投資が合弁事業にまで進展するには、行使価格や電力購入コミットメントの期間等、重要事項について予め合意に達しておくことが重要となる。さらには、再生可能なエネルギーやエネルギー効率の分野でも、二国間協力進展の可能性がある。

セッション5:東アジアの地政学と安全保障上の課題

第5セッションでは、東アジアの地政学を取り上げ、日本、中国、北朝鮮、韓国の現状を概観し、東アジア地域の安全保障を巡る問題に対処するための政策選択肢について議論したが、この微妙な問題の複雑さを反映して、出席メンバーからは幅広い意見が聞かれた。まずそれぞれの経済規模という観点から、日中間のパワーバランスが変動したという認識を共有した。中国はますます自信を深め、もはや地域の現状維持を受け容れなくなっている。同時に、中国は急成長の結果、数多くの問題を抱えるに至っており、所得格差や環境問題に対する国内の不満、国内の不満の捌け口として特に日本をターゲットとしてナショナリズムを煽るという中国政府の対応、さらには、台湾やチベット等、国にとってコアな利害を守るためには武力行使も辞さないという姿勢などがその例といえる。さらには、今後の中国外交政策が、域内の覇権を拡張する方向に向かい、米国と衝突する可能性があることも懸念されている。尖閣諸島の領有を巡る中国のスタンスに日本側が苦慮している事例などは、このパワーバランスの変動を如実に現している。日本側は、この問題に対しては法の原則に則ってアプローチをしており、妥協の余地は全くないということを強調した。メンバーの何人かからは、日本は中国との信頼醸成措置を強化し、併せて(中国封じ込め策だとは見なされないような形で)米国やEU、中でも英国、韓国、オーストラリア、アセアン諸国、およびインドなどとのパートナーシップも強化すべきだとする声が聞かれた。

金正恩の新体制の下で北朝鮮が極端に挑戦的な行動をとっていることが、地域の安全保障と国際社会に対して深刻な挑戦を突きつけている。この北朝鮮の行動は体制内の不安定がその背景にあり、理由としては、国連の制裁に対する強硬な対抗措置だという見方から、韓国新政権を試しているのだという見方まで、様々な見解があるものの、北朝鮮の軍事力強化は地域に対する深刻な脅威であると受け止める必要がある。これまでのところ米韓同盟が抑止力として有効に機能してきており、朴槿恵大統領の事態への対処も評価されているが、北朝鮮が無分別な行動をとったり、偶発事故により軍事対立が誘発されたりする危険性は現に存在する。この状況の打開に向け、中国にはより効果的な役割を果たすことが期待される。本セッションでは、青年や研究者等を中心とした人的つながりを促進するなど、これまで以上に北朝鮮を国際社会に関与させるべきだとの声も聞かれた。

日本に関しては、安倍首相の政策、中でもこの6月に発表されることになっている「第三の矢」が構造改革措置を含むと目されており、日本経済回復の鍵を握っているとみられている。歴史問題の見直し問題は、日本国内にある特定の見方を反映したものであるかも知れないが、近隣アジア諸国のみならず欧米においても懸念が広がっていることに鑑み、日本政府はもっと現実的な対応をとるべきだとの意見が、メンバーの何人かから聞かれた。

セッション6: 欧州と日本:貿易および投資の将来

このセッションでは、貿易と投資の分野における日英間の連携の現状につき、意見交換が行われた。日EU経済連繋協定(EPA)に向けての交渉が開始されたことにより、欧州における日本の経済機会が拡大する一方、欧州側の対日投資・貿易の機会も増大する可能性が出てきている。英国は日本の欧州における主要貿易パートナーであり、対欧州投資の拠点ともなっているので、この協定が成立した暁には、多くの恩恵を受けることになる。この協定が、不況にあえぐ欧州経済に刺激を与えることも期待される。日本は、この協定に向けての交渉開始を促進する上で、英国の支援を大いに多としている。

交渉を成功させるためには対処しておかなければならない課題がいくつかある。中でも、現実のものであれ、あるいはそう信じられているだけのものであれ、非関税障壁に対する欧州側の懸念に日本側が対処することが重要である。加えて、貿易・投資環境を改善させるためには、規制緩和を実施すべきだとの議論も聞かれた。

本セッションでは、日本と英国、ならびに欧州全体との間のトレーニングに関する協力関係を支援することの重要性も強調された。例えばヴルカヌス・プログラムや、EUビジネスマン日本研修プログラム(ETP)等の試みは、両地域間の教育・文化交流の枠組みを提供しており、これが将来のビジネス環境を下支えすることになると期待される。

セッション7: コーポレート・ガバナンスと21世紀の資本主義:日英共通課題

このテーマについて、日英双方のメンバーは熱意を持って議論した。コーポレート・ガバナンスは、「アジアの世紀」という新しい環境の中で、社会的に包括的な富の創造を推し進める上で中核的な役割を果たすものとみられている。どのようにして、新興市場に国際規範への順応を促し、この「社会的に包括的な富の創造」という目標追及に参加させるかが大きな課題だ。このためには、例えば、適切なビジネス行動を開発援助供与の条件にするという方法などが考えられる。産業界や政府における強いリーダーシップが成功の鍵であり、最終的に次世代の生活の質を左右するとみている。

この問題に関しては、実は先進国の間でも、解決から程遠い状態にあることが確認された。コーポレート・ガバナンスが定着、普及するためには、産業界のみならず、政界、官界や市民全体も、ビジネス活動の監視に責任を負う必要がある。日本の場合、集団思考を大事にする企業風土もあってか、これまでも、コーポレート・ガバナンスの欠如と受け取られてもしょうがないような事例がみられている。全世界的にビジネスを行っている一流企業は日本にも数多くあるが、こうした企業の場合でも、会社経営陣の業績を監視する上での社外取締役の役割を十分に理解、認識しているとは言いがたい。欧米の企業に比べて日本の経営陣は会社に長く留まるケースが多く、さらに日本の企業の場合、株主だけでなく、従業員や取引銀行、顧客から、果ては退職した元経営陣に至るまで、様々なステークホルダーの意向も大事にする傾向がみられる。

日本の企業は、持続可能な企業価値の創出を強調するのであれば、株主の関与の度合いを高め、トップ・マネージメントに、もっと多様でグローバルな視点を持ち込むために社外取締役の数を増やすべきだという点に関し、合意がみられた。

セッション8: 日英の国際開発協力

第8セッションでは、国際開発と民間警備の分野における日英間協力の可能性が話し合われた。開発プロジェクトの実施方法や、プロジェクトを実施する地域に関して、日英間にはこれまでも違いがあり、これが、二国間協力が本格的に根を下ろせないでいる理由となっている可能性があるが、今日では両国の努力が重複する部分が増えてきており、協力の可能性も増してきている。例えば、開発途上国自体に富を創出することが開発のための強力な推進力となるので、特に貿易円滑化を通じてこれを促進すべきだという点に関して、日英間にコンセンサスが生まれつつある。また、ソマリア等の地域における開発プロジェクトや、貿易活動を保護するための民間警備の存在が、海賊行為を防ぐ上で死活的に重要だとの認識がみられた。

日英間協力の具体的分野として、以下の四分野が提案された。

英国国際開発省と日本の国際協力機構(JICA)の間で、特定の途上国に対する援助活動を相互調整する。例えば、英国にとっては未知の援助対象でありながら、JICA が他に類を見ない知識と経験を有するミャンマーなどが対象として考えられる。

老若男女を途上国に招へいし、こうした人々を開発過程に参加させるための日英協力。同時に、内向き傾向が懸念される日本の若者の目を外に向けさせるという副次的効果も期待される。

主要開発会議において、日英それぞれの長所を生かしたセミナーを共催する。具体的には、日本側の大規模インフラ整備プロジェクトへの資金供与・プロジェクト構築における強みと、英国側の財務管理とサービス供与における強みを相互に補強しあうセミナーを共催する。

本グループのメンバー間で現在展開されている対話へのフォローアップと、(a)ジンバブエにおける出産女性用シェルターの再構築と、 (b)ミャンマーにおける農村開発への女性の関与の増大、という二つのプロジェクトの実施。

セッション9:日英二国間協力の進展状況と将来展望

過去一年間、日英間には幾重にも亘る取り組みが見られ、本委員会の2012年度合同会議の提案も、様々な形で実施されてきている。

政府間レベルでは、英国の財務大臣、保健大臣、国際開発大臣、ウェールズ大臣、外務連邦省担当大臣、ビジネス・イノベーション・職業技能省担当大臣、運輸省担当大臣、文化・メディア・スポーツ省次官の訪日がみられ、同時期、イングランド銀行総裁およびロンドン市長も東京を訪問している。

日本側からは、外務大臣が2012年10月に第一回日英外相戦略対話に出席するため訪英している。2013年のG8会合において英国が議長国を務めることから、主要国首脳会議に先立ち日英の外務大臣、財務大臣などの会談が行われている。さらに、文部科学大臣や財務副大臣、内閣府副大臣、東京都知事も訪英している。日英両国の首相は、本年6月、英国において首脳会談を持つことになっている。

貿易・投資関係の強化や、国防・民生用原子力協力、さらには国際開発共同事業等、日英両国にとって重要な二国間問題に関して、着実な進展がみられた。

英国は、日EU経済連携協定ならびに政治協定に向けての並列交渉開始を積極的に支援してきたが、協議の第一ラウンドは2013年4月に開始された。この野心的な協定が締結されれば、専門的サービス(財務サービスを含む)、自動車産業、政府調達等、英国にとっての重要分野を含め、日本EU間の貿易は大きな恩恵を受けることになると感じられている。

防衛協力も、優先順位の高い分野であり、日英21世紀委員会でも、両国政府間のこの問題に関する話し合いの成果を定期的にアップデートするメカニズムを備えるようになっている。2012年6月の日英防衛協力覚書調印以降、日英の産業界が協力できる防衛機材プロジェクトを確定し、必要な法的枠組みを用意するための努力が展開されている。

2012年の第29回日英21世紀委員会合同会議における討議を受け、第5回アフリカ開発会議に向け、国際開発、ことにアフリカ開発に関する日英協力に焦点をあてはじめている。本委員会は、JICA や、ロンドンのアジア・ハウス、さらには在英日本大使館と協力し、一連のセミナーやワークショップ開催に直接関与してきている。

エネルギー問題、中でも民生用原子力分野における更なる協力の機会も、引き続き、探求している。日英エネルギー政策対話の次回会合は、2013年7月に開催予定である。

日英両国間の高等教育における協力も強い絆を保っている。日英21世紀委員会としては、英国における日本研究を対象としたササカワ・レクチャーシップ・プログラムや、日本財団が助成しグレイトブリテン・ササカワ財団と共同運営する5年間の王立国際問題研究所日英会議シリーズを歓迎する。今年は、オックスフォード大学日産インスティテュートで、著名な研究者を招へいして「なぜ日本が大事なのか」という会議が開かれ、さらにシェフィールド大学でも「英国の将来と日本」と題する会議が開催されている。

初等教育レベルで選択できる外国語の幅を狭める(日本語を除外する)措置を含む英国の全国教育カリキュラム改編が本合同会議でも議論された。履修選択肢から日本語を外すということは、公的教育機関における日本についての幅広い学習を妨げるし、長期的には、大学レベルの日本語学位課程に対する学生の興味を損なう恐れがあると懸念された。

先ごろ日本政府は、日本人の英語の水準を向上させるための措置をとるとの声明を出したが、これは本合同会議では好意的に受け取られ、特にJETプログラムで日本に招へいする若者の数を倍増させるという計画は大いに歓迎された。しかしながら、TOEFL を唯一の英語力判定試験として採用するという考え方については、英語教育を通じた英国との結びつきに悪影響を及ぼしかねないとの懸念を表明するメンバーがいた。

第29回日英21世紀委員会合同会議の提言に従い、ブリティッシュ・カウンシルが日英間の教育交流に関するスコーピング・スタディを行ったことに、メンバーから賞賛の意が表された。この調査により、若者が活用できる日英二国間交流の機会が明確化され、数量化されたことが評価された。

2013年は、いくつかの日英関係上重要な出来事の記念の年となる。今年は、1863年に長州藩士五名、いわゆる「長州五傑」が渡英し、ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジで研鑽を重ねてから150年目の節目の年に当たり、この五人が日本の近代化に果たした貢献を検証することになっている また、1613年に成立した日英二国間の外交、通商、科学、文化の交流の400周年を記念する一大文化事業「ジャパン400」の開催が企画され、日英関係の長い歴史を祝う様々な行事が、日英両国で計画されている。

提言

今回の第30回合同会議における議論を踏まえ、日英21世紀委員会は以下の提言を行う。

日EU経済連繋協定(EPA)

  • 日英21世紀委員会メンバーは、EPA締結に向けての交渉開始を歓迎し、現実のものであれ、あるいはそう信じられているだけのものであれ、非関税障壁に関する欧州側の懸念に対する日本側の対処に一定の前進がみられたことを評価する。こうした非関税障壁の中には、様々な政府規制の枠組みから派生したものも少なくない。
  • 政治協定の締結が、EPA締結の前提条件となることへの懸念が表明された。日本の立場に対して、英国側が引き続き支援することの重要性が強調された。s

防衛協力

  • 日英21世紀委員会メンバーは、防衛協力に関し、定期的に更新情報を受け取ることを可能にするメカニズム作りに対する両国政府の前向きな姿勢を歓迎する。このメカニズム作りのプロセスが継続され、まずはプロジェクトを一つ成功させることが重要だという点で、合意が見られた。

エネルギー協力

  • 日英21世紀委員会メンバーは、既存の日英原子力年次対話に加え、再生可能エネルギー分野の協力に関する官民共同フォーラムを設置する可能性を探る必要性に関し合意に達した。
  • 日本の対英原子力エネルギー投資を促進するため、日英21世紀委員会メンバーは、行使価格やプロジェクト実施のタイムフレーム等、重要事項や条件について予め合意に達しておくことの重要性を強調した。
  • 日英21世紀委員会メンバーは、福島第一原発事故の経験を踏まえ、原子力部門におけるリスク管理、災害管理に関する経験と知識を共有するための研修・交流機会が設けられるべきと提案する。
  • 日英21世紀委員会メンバーは、英国の「首席科学顧問」という制度を、日本政府各部局がモデルとすべきものとして推奨する。

国際開発協力

  • 日英21世紀委員会メンバーは、先進国首脳会議と第5回アフリカ開発会議の成功を期待しており、更に今後、アフリカやミャンマーにおける開発プロジェクトに関し、二国間協力の可能性が、官民両レベルで探られていくことを期待する。
  • 日英21世紀委員会メンバーは、開発途上国に対するODA供与と投資に関し、中国と協力していく可能性を、今一度、強調する。

女性の活用

  • 日英21世紀委員会メンバーは、公的な立場、ことに政界や実業界における女性の役割の重要性を認識し、このテーマに関して想起される様々な課題について議論する日英二国間セミナーの2013年/2014年期開催を検討すべきことを提言する。

安全保障

  • 日英21世紀委員会メンバーは、両国政府に対し、国際関係の改善に向けて自ら持てるソフト・パワーや影響力を行使するよう、強く要望する。

日英首脳間コミュニケーション

  • 日英21世紀委員会メンバーは、日英両国の首相官邸間にビデオ・ホットラインを敷設することを検討するよう、提言する。

若手政治家

  • 日英21世紀委員会メンバーは、日英双方の若手政治家の対話から得るものが多いとの認識にたち、両国国会に対し、そのような対話を発展させていくためのパイロット・プログラムを実施する可能性を探るよう、提言する。

教育交流

  • 日英21世紀委員会メンバーは、英国の初等教育レベルの外国語教育において日本語教育の機会を制限しかねないような全国カリキュラム改編に対して懸念を表明する。この改編により、初等・中等教育レベルのみならず、高等教育レベルにおいても、日本に関する幅広い研究に悪影響が及ぶ可能性がある。
  • 日英21世紀委員会メンバーは、日本人の英語水準向上に対する日本政府のコミットメントを歓迎するが、大学入試における英語審査方法として、TOEFL のみならず、IELTSも採用されるべきだと提案する。
  • 日英21世紀委員会メンバーは、JETプログラムで日本に招へいする若者の数を倍増させるという計画を歓迎し、この計画において、英国人が大きなシェアを占めることを強く要望する。
  • 日英21世紀委員会メンバーは、第29回日英21世紀委員会合同会議の提言に従い、ブリティッシュ・カウンシルが日英間の教育交流に関するスコーピング・スタディを行ったことを歓迎する。本委員会は、両国の中等教育レベルの生徒たちが、広範な文化的体験をすることが出来るよう、既存のプログラムを拡充する機会を増やすことを提案する。
  • 日英21世紀委員メンバーは、日英間に持続可能な知識と熟練のプールを構築することを目指し、交流・研修協力関係を強化すべきであると提言する。

プログラム
セッション1:日本の現状と課題-国内政治情勢と経済の展望
スピーカー:小泉 進次郎衆議院議員(自由民主党)
前原 誠司衆議院議員(民主党)
 
セッション2:英国の現状と課題-国内政治情勢と経済の展望
スピーカー:フィリップ・スティーブンスフィナンシャルタイムズアソシエイト・エディター
 
セッション3:緊縮または停滞か?:日本の失われた数十年からの教訓
日本側:会田 弘継共同通信社論説委員長
英国側:アンドリュー・スミサーズ  スミサーズ・アンド・カンパニー会長
 
セッション4:気候変動とエネルギー政策
英国側:ロビン・グリムス英国外務連邦省首席科学顧問
日本側:黒川 清国会フクシマ原子力発電所事故調査委員会委員長(2011-2012年);特定非営利活動法人日本医療政策機構代表理事;政策研究大学院大学アカデミック・フェロー、教授
 
セッション5:東アジアと中東における地政学上および安全保障課題への挑戦
日本側:田中 均(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー;(株)日本総合研究所国際戦略研究所理事長
英国側:ジョン・スウェンソン=ライトケンブリッジ大学富士銀行日本政治及び国際関係特別講座専任教授、英王立国際問題研究所アソシエート・フェロー
 
セッション6: 欧州と日本:貿易および投資の将来
英国側:チャールズ・グラント欧州改革センターディレクター
日本側:田辺 靖雄(株)日立製作所執行役常務
 
セッション7: コーポレート・ガバナンスと21世紀の資本主義: 日英共通課題
英国側:ジョーンズ卿英国産業連盟(CBI)元ディレクター
日本側:平野 博文(株)KKRジャパン代表取締役社長
 
セッション8: 日英の国際開発協力
日本側:竹田 いさみ獨協大学教授
英国側:テレンス・ジャガークラウン・エイジェンツ取締役
 
日英二国間協力の現状と将来への展望
英国側:マコネル卿英国上院議員
日本側:塩崎恭久衆議院議員(自由民主党)
 

参加者
[日本]
塩崎 恭久日英21世紀委員会日本側座長
衆議院議員(自由民主党)
会田 弘継共同通信 論説委員長
黒川 清政策研究大学院大学アカデミックフェロー、日本医療政策機構代表理事、東京電力福島原子力発電所事故調査委員会委員長(2011年12月〜12年7月)
小泉 進次郎衆議院議員(自由民主党)
渋澤 健日英21世紀委員会日本側ディレクター、(公財)日本国際交流センター理事長
グラハム・スミス  トヨタ・モーター・ヨーロッパロンドン事務所長兼上席顧問
竹田 いさみ獨協大学外国語学部教授
田中 均(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、(株)日本総研国際戦略研究所理事長
田辺 靖雄(株)日立製作所執行役常務
中田 宏衆議院議員(日本維新の会)
長島 昭久衆議院議員(民主党)
林  景一駐英日本大使
林 春樹三菱商事株式会社執行役員、欧州アフリカ統括兼欧州三菱商事会社社長
平野 博文株式会社KKRジャパン 代表取締役社長
福川 伸次一般財団法人 地球産業文化研究所顧問
前原 誠司衆議院議員(民主党)
水鳥 真美セインズベリー日本藝術研究所統括役所長
水野 弘道コラー・キャピタル・リミッテッド パートナー、内閣官房戦略参与(健康医療)
 
[英国]
ハワード卿
(Lord Howard)
日英21世紀委員会英国側座長
英国上院議員(保守党)
ジョン・ボイド
(Sir John Boyd KCMG)
アジア・ハウス会長
元駐日英国大使
サミール・ブリコー
(Samir Brikho)
AMEC社グループ執行役員
マリー・コンテ-ヘルム
(Marie Conte-Helm OBE)
日英21世紀委員会英国側ディレクター
カニンガム卿
(Lord Cunningham)
英国上院議員(労働党)
チャールズ・グラント
(Charles Grant)
欧州改革センター ディレクター
ロビン・グライムス
(Robin Grimes)
英国外務連邦省首席科学顧問
ティム・ヒッチンズ
(Tim Hitchens)
駐日英国大使
グレン・フック
(Glenn Hook)
シェフィールド大学東アジア研究所教授
テレンス・ジャガー
(Terence Jagger)
クラウン・エージェンツ社取締役
マーゴット・ジェームス
(Margot James)
英国下院議員(保守党)
ジョーンズ卿
(Lord Jones)
英国上院議員
元英国産業連盟事務総長
マコネル卿
(Lord McConnell)
英国上院議員(労働党)
リチャード・ニーダム
(Sir Richard Needham)
元産業通商省通商担当大臣
ロビン・ニブレット
(Robin Niblett)
王立国際問題研究所所長
ヤスミン・コレッシュ
(Yasmin Qureshi)
英国下院議員(労働党)
スコット男爵夫人
(Baroness (Ros) Scott)
英国下院議員(自由民主党)
アンドリュー・スミサーズ
(Andrew Smithers)
スミサーズ & Co 会長
フィリップ・スティーブンス
(Philip Stephens)
フィナンシャルタイムズ アソシエイト・エディター
ジョン・スウェンソン=ライト  
(John Swenson-Wright)
ケンブリッジ大学富士銀行日本政治及び国際関係特別講座専任教授、英王立国際問題研究所アソシエート・フェロー
リチャード・ソーンリー
(Richard Thornley)
ロールス・ロイス・ジャパン社長
デイヴィッド・ウォーレン
(Sir David Warren KCMG)
ジャパン・ソサエティ会長;元駐日英国大使