活動報告

日本国際交流センター(JCIE)は、地球規模課題としてのグローバルヘルスに対する日本の貢献を推進することを目的に「グローバルヘルスと人間の安全保障」プログラムを実施しています。2018年9月より、同プログラムの一環として、超党派の若手・中堅の国会議員を対象に、グローバルヘルスに関する議員ブリーフィングを開始しました。国境を超える感染症の脅威や、保健医療制度、保健財政などについて定期的なブリーフィングを行い、世界の現状や日本の役割について国会議員の理解を深め将来的にリーダーシップを発揮していただくための機会を提供するものです。

 

昨年9月に開催した第1回ブリーフィング「米国のグローバルヘルス外交における連邦議員の役割」に引き続き、第2回は12月21日(金)日本医療政策機構(HGPI)との共催で、日本感染症学会ならびに日本臨床微生物学会の理事長を務める舘田一博 東邦大学微生物・感染症学講座教授を講師に招き、「迫り来る薬剤耐性(AMR)の脅威、いま必要な政治のリーダーシップ」をテーマに開催しました。要旨は以下の通りです。

 


開会挨拶:大河原昭夫 (公財)日本国際交流センター(JCIE)理事長

モデレーターを務めたJCIE理事長の大河原は、無為無策のままでは、2050年にはAMRによる死者は1千万人、経済的損失は100兆ドルに達するとの推計を紹介し、AMRが人道面、経済面においてグローバルな課題であると述べた。また、国際的危機意識の高まりを受け、世界保健機関(WHO)により「AMRに関するグローバルアクションプラン」が採択されたことや、G7エルマウ、伊勢志摩、G20ハンブルグ、ブエノス・アイレスのサミットいずれの首脳宣言においてもAMRについて言及されていることを紹介すると共に、甚大な影響が懸念される具体的な疾患の一つとして結核を挙げた。

 

AMR課題と官民連携の動き:乗竹亮治 日本医療政策機構(HGPI)理事・事務局長

乗竹 HGPI事務局長は、AMR対策の推進や国際連携が抱える4つのジレンマとして、1)「使い過ぎてはいけない薬」に起因する市場メカニズムを通じた研究開発の難しさ、2)医療のみならず、畜産や漁業にも及ぶ多様なステークホルダー、3)処方箋なく安価かつ容易に抗菌薬を入手できる途上国を含めた国際協調の必要性、4)感染症対策に加算される診療報酬が病院の感染症対策に直接還流しない病院経営の仕組みの問題点を挙げた。また、2018年11月、8学会の協働の下で設立した官民連携プラットフォーム「AMR アライアンスジャパン」について紹介し、今後の立法府の役割に大きな期待を寄せた。

 

迫り来るAMRの脅威、いま必要な政治のリーダーシップ:舘田一博 日本感染症学会理事長、日本臨床微生物学会理事長、東邦大学微生物・感染症学講座教授

舘田教授は、日本政府が2016年に発表した「AMR対策アクションプラン2016-2020」の方向性について、1)啓発・教育(対医療従事者及び国民)、2)サーベイランス、3)感染対策強化、4)適正使用(賢く大事に使う)、5)創薬促進、6)国際協力の項目に沿って説明した。とりわけ国際協力に関しては、2010年、都内の大学病院で死者を出すほどの耐性菌アウトブレイクが発生したものの、世界各国に比較すれば薬剤耐性の発生は極めて低い状態で推移しており、日本にはこの問題を地球規模課題として捉え、知見を世界に共有していく国際的な責任がある。

さらに、インドやパキスタン、バングラデシュ、タイなど、アジア諸国で多くの耐性菌が検出されており、今後2020年のオリンピック・パラリンピックを契機にインバウンドが増えることにより、耐性菌が日本国内にも持ち込まれる懸念に言及し、医療のみならず、当該国で抗菌薬へのアクセスを左右する貧困や経済、文化の視点で検討していかなければならない。
また、5つめの創薬促進については、治療開始後、多くが半永久的な服用の継続を必要とする非感染性疾患(NCDs)とは異なり、感染症は服用期間が短いため収益性が低く、ビジネスの原理だけでは創薬を継続できない状況であると説明した。世界標準の抗菌薬を多々創出してきた日本の製薬産業の実績に鑑み、今後も製薬を継続していくためには政治による後押しが必要である。

一例として、2020年までに10の薬剤を開発できるよう、政府がインセンティブをつけて創薬を推進している米国の例を挙げた。さらに同国では、GAIN法(The Generating Antibiotic Incentives Now Act of 2011)の法案が採択され、新規抗菌薬に対しては特許独占期間を5年間延長するなどの措置がとられている。わが国における同様の創薬促進の方向性としては、薬価や特許独占期間、臨床試験の円滑化といった可能性を挙げた。

 

討議

その後行われた討議では、出席した議員から活発な意見や質問が寄せられた。
医療機関間における患者の耐性菌感染状況の共有は、以前に比較すると改善されてきたものの、特別養護老人ホームといった高齢者施設は依然対応が遅れがちである。また、診療報酬の感染防止対策加算が各医療機関の感染症対策に確実に使われるような仕組みを作ることによって、AMR対策がより後押しされるだろう。
アジアにおける日本の国際協力の方向性については、厚労省により日本国内で行われている院内感染対策サーベイランス(JANIS)と同様の仕組みをアジア各国でも構築し、各国の状況を把握し、次の戦略に繋げることが検討されていることが紹介された。

さらに、動物や農産物にはヒトに使われる2倍以上の抗菌薬が使用されている状況に鑑み、動物由来感染症の対策にあたり厚労省、文科省、農林水産省間の一層の連携強化を促進し得る立法府への期待が挙げられた。また、他の参加者は、ヒブや肺炎球菌などのワクチンが定期接種化されたことによって小児髄膜炎が著しく減少した実績を挙げ、感染症予防に寄与するワクチン政策の重要性について言及した。
創薬促進の取組みに関しては、これまでは各社が創薬情報の機密性を重視してきたものの、近年はデータベースの共有など、製薬企業間の協調制度ができつつある。

さらに、収益性の低い創薬を推進する仕組みとしてグローバルヘルス技術振興基金(GHITファンド)が挙げられたものの、現在のメカニズムは原則的に顧みられない熱帯病(NTDs)のみを対象疾患としており、感染症全般の創薬は権限にないという現状が説明され、こういったメカニズムの間口を広げるよう後押しすることも立法府の役割の一つとなり得ることが議論された。


 

報告要旨(PDF版)はこちらよりダウンロードしてお読みください。

 

第2回グローバルヘルスに関する議員ブリーフィング出席議員

   自由民主党 安藤 高夫   衆議院議員
  石崎  徹         衆議院議員
  小倉 將信         衆議院議員
     田畑 裕明   衆議院議員
     牧島 かれん  衆議院議員
   公明党 竹谷 とし子  参議院議員
  谷合 正明         参議院議員
   立憲民主党 吉田 統彦         衆議院議員

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(所属はブリーフィング実施時・敬略称)

 

舘田一博教授 略歴

日本感染症学会理事長、日本臨床微生物学会理事長、東邦大学微生物・感染症学講座教授
長崎大学医学部内科学講座にて研修医として勤務後、同大学医学部臨床検査医医学大学院において博士号取得。東邦大学医学部微生物講座にて、助教及び講師として勤務後、ミシガン大学呼吸器内科留学。2011年より東邦大学医学部微生物・感染症講座において、主任教授を務める。2017年に一般社団法人日本感染症学会理事長就任。2018年に一般社団法人日本臨床微生物学会理事長に就任。

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