活動報告

 

日本国際交流センター(JCIE)とイントラヘルス・インターナショナルは、2019年8月28日、パシフィコ横浜展示ホールにて、第7回アフリカ開発会議(TICAD7)公式サイドイベント「保健人材への投資:UHC達成と経済発展のカギ」を開催しました。日本や、アフリカ諸国をはじめとする世界各国の政府、NGO、大学・研究機関、国際機関などから120名以上の方の参加を得て、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成する上での保健人材への戦略的な投資の重要性と、それによって社会にもたらされる多様な利益、保健人材の開発を後押しするために今必要とされることなどについて、議論しました。

サイドイベントの要旨は、以下の通りです。また、JCIEのYouTubeチャンネル「JCIE Global Studio」から、サイドイベントの動画全編をご覧いただけます。

 

当日配布したプログラムは、こちらからご覧ください。

 


 

要旨

 

開会挨拶

開会挨拶に登壇した武見 敬三 参議院議員、JCIEシニアフェローは、保健人材が各国における保健システムとUHCの達成にとって重要な構成要素であるのみならず、ジェンダー平等や雇用創出、包括的な経済成長など、他の社会的目標にも貢献することを強調した。しかし、保健人材への投資は不十分であり、とりわけサハラ以南アフリカでは顕著な人材不足に陥っていると述べた。議論されるべき課題として、保健人材に関する包括的データの継続的な更新、保健人材の労働環境の改善やモチベーション管理、ジェンダー不平等の解消を挙げた。人々を中心に据えるアプローチは、まさに日本が長年にわたり外交の主軸として提唱してきた「人間の安全保障」と強く整合性を持つものであり、本サイドイベントがアフリカと日本が協調して社会課題へ取組むアフリカ開発会議(TICAD)のサイドイベントの位置づけで開催されることの意義について、改めて確認した。

 

基調講演

基調講演に登壇したクウェク・アジマン=メーヌ ガーナ共和国保健大臣は、ガーナでは政府によるリーダーシップの下、国民皆保険の普及を通じてUHC達成を促進しており、過去15年で保険制度への加入者が1000万人近く増加したことを報告した。それでもなお、割合にすると国民の3割程度に留まっており、取組みを加速させなければならない。その中で保健人材の確保は急務であり、特に物理的にアクセスが困難な地域で、医師や看護師、助産師が著しく不足している現状を強調した。

 

パネル:サハラ以南アフリカにおけるストーリーの共有

サムソン・オラム ウガンダ共和国保健省人事管理部長代理は、他のアフリカ諸国と同様、ウガンダもまた保健人材の顕著な不足に陥っていると述べた。また、保健従事者の半数以上が女性であるにも関わらずその多くは低い地位にいることや、およそ3割の医療従事者が職場でのセクシャルハラスメントを経験しているという調査結果(2013年)を受けて、ウガンダ保健省では、ジェンダー主流化ガイドライン及びセクシャルハラスメント防止のためのガイドラインを作成したことを報告した。また、2000年にコンゴ民主共和国でエボラ出血熱が発生した際に、ウガンダでも17人の医療従事者の命が失われた。そこで、ウガンダ保健省では産業衛生及び労働安全分野にもデータを活用することとなり、感染リスクの高い地域で勤務する全ての医療従事者にエボラワクチンの接種を実施する戦略を策定し、現在対象者への接種を開始しているところであると伝えた。

 

隣接するケニアでもまた、保健人材の著しい不足が課題となっている。パネルに登壇したジャネット・ムリウキ イントラヘルス・インターナショナル ケニア共和国保健人材プログラム副局長は、ケニアでは人口1万人あたり医療従事者が15人しかおらず、これは世界保健機関(WHO)の推奨基準を大きく下回っていることを伝えた。この背景の一つには、学生が専門教育を受けるための費用を捻出できないことが挙げられる。そこで2013年、ケニア保健省、教育省、米国国際開発庁(USAID)、イントラヘルス・インターナショナル、民間企業や財団が手を取り、比較的低利(4%)の教育ローンである「アフィア・エリム基金(Afya Elimu Fund)」を設立した。これまでに累計160万米ドルの資金を集め、2万2,000人が基金による支援を受け、およそ4割が看護学生を占めている実績を紹介した。さらに、これまでに50万ドルの利子収入があり、450人の学生を支援することに繋がっていることを報告した。

 

国境を超えた取組みに言及したのは、永井 真理 国立研究開発法人国立国際医療研究センター(NCGM)国際医療協力局連携協力部国際連携専門職である。2010年、国際協力機構(JICA)による支援とNCGMによる技術協力の下で始動した仏語圏アフリカ保健人材ネットワーク「Réseau Vision Tokyo 2010」について紹介し、現在13カ国の仏語圏アフリカ国が参画し、各国に共通する課題解決に取り組んでいることを報告した。本ネットワークに参画するセネガルでは、既存の医療情報データベースを国の文脈に合わせた形で改良し、全国展開させていたため、2014年エボラ出血熱のアウトブレイクが発生した際には、国境付近で従事する医療従事者を直ちに特定し、感染拡大をコントロールすることができた。この取り組みを好事例としてネットワークで共有し、他国による改良や導入を支援した。また、ネットワークで明らかになった地域偏在の課題に取り組むため、医療従事者が地方の農村等でどの程度の期間勤務する必要があるか明確に規定するガイドラインを作成し、モニタリングを行っていることを紹介した。

 

その後、ディスカッサントとして登壇した自見 はなこ 参議院議員は、日本の戦後70年の歴史において、1961年にUHCを達成させた背景として、医師や看護師制度だけでなく、文部科学省と厚生労働省の協働の下で栄養士、言語聴覚士や作業療法士といったコ・メディカルの認証制度を確立させてきたことを紹介し、保健人材の不足に直面するサハラ以南アフリカの国々においてもこうしたコ・メディカルの育成を強化する必要性を強調した。

 

世界中の人口のおよそ半数にあたる35憶人が基礎的な保健サービスへのアクセスがないことを忘れてはいけない、と述べたジェラール・シュメッツ WHO UHC/ライフコース コーディネーターは、保健人材なくしてUHCは前進しないことを強調した。保健人材への投資が生み出す多様な利益の一例として、保健人材に対する給与支払いをたった1%増加させるだけで、GDPが0.56%上昇、家計所得が2.5%増加、雇用が0.32%増加するというコートジボワールの調査結果を紹介した。

 

医療経済学者である前田明子氏は、たとえ保健人材の数が十分であったとしても、その労働環境が公正かつ安全で、働きがいがあり、尊厳が守られ、感情的に豊かなものでなければ、期待される結果は導き出されないことを強調し、職業としての質に対する懸念を挙げた。また、前田氏が関わった経済協力開発機構(OECD)の調査報告から、多様な職種と協調するチームワーク、日々直面するストレスに対処する感情的な知性、ビックデータやAIなど新たなテクノロジーの効果的な活用といった横断的なスキルが将来的に医療従事者に必要とされるだろう、と訴えた。

 

対談:アフリカにおける保健人材開発の未来への展望

保健人材の分野で数々の功績が認められ、TICAD7で第3回野口英世アフリカ賞の授賞を受けたフランシス・オマスワ グローバルヘルスと社会変革のためのアフリカセンター(ACHEST)所長は、パップ・ガイ イントラヘルス・インターナショナル理事長兼最高経営責任者と、保健人材を取り巻く国際的な議論の歴史を振り返り、対談を繰り広げた。オマスワ氏は、保健人材に関する議論を国際的なテーマに押し上げてきたことを国際社会の成功と認める一方で、アフリカ諸国の指導者たちの確固たるリーダーシップと政治的な意志が十分に醸成されていないことを指摘した。UHCや保健人材が喫緊に取り組まれるべき優先課題であると認識されながらも、具体的なコミットメントには繋がらない背景に、機運の喪失があることを挙げつつ、UHC達成を強く後押しする現在の国際社会のうねりに、保健システムの主要な構成要素である保健人材をうまくリンクさせることが重要であると訴えた。

また、他の地域に比較して劣悪な保健指標や甚大な疾病負荷ばかりに焦点が当てられがちだが、他方で、多くの若いパワーを秘めているアフリカには、ポジティブなチャンスもあるのではないかと問いかけたガイ氏に対して、オマスワ氏は、持続可能な開発目標(SDGs)は明確なチャンスであると指摘した。アフリカの指導者たちにかつての情熱を取り戻させ、彼らのマインドセットを変容させていくため、専門家集団や市民社会が今こそ手を取り合い、政治的な意志と正しい選択のためにプレッシャーをかけることができれば、アフリカの保健人材が将来、他の地域の国々の救いにもなるだろうと期待を表した。

 

 

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