第2回ティファニー財団賞―日本の伝統文化と現代社会―

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トロフィーとともに  受賞団体のみなさん
2008年12月から2009年1月末日まで、対象となる分野の専門家および各地域の関係諸団体に対して本賞にふさわしい団体の推薦を依頼し、過去に十分な実績がある組織のうち本賞の趣旨にかなう組織に対して、日本国際交流センターから自薦をお願いしました。

伝統文化大賞については31団体、伝統文化振興賞については29団体の推薦をいただきました。推薦を受けた団体について、事務局選考の後、当センターが委嘱する3名の選考委員による審査を経て、第2回ティファニー財団賞受賞団体を決定いたしました。

2009年6月26日金曜日に東京都内で開催された授賞式では、主催者挨拶の後、米国大使館ロナルド J. ポスト臨時首席公使からご挨拶をいただきました。ティファニー・ジャパン社長マイケル・クリスト氏よりティファニー製トロフィーが、(財)日本国際交流センター理事長山本正より200万円の賞金目録が受賞団体に授与され、受賞団体代表者から喜びの言葉が述べられました。


南條史生氏と日比野克彦氏
選考委員をお勤めいただきました、森美術館館長南條史生氏、東京藝術大学教授でアーティストの日比野克彦氏によるインタビュー形式での講評では、ティファニー財団賞の潜在的な意義について高い評価をいただきました。今後の日本の国づくりにおいて地方が大きな位置を占めることになるが、伝統的な文化をまちの人々が自分たちで守っていく活動はその中心となるべき活動であり、そうした全国各地の活動のなかから優れた事例を表彰することで、次世代の人々の価値観をリードし、暮らしを豊かにすることにつながる、と述べられました。日本の地域の取り組みを、アジアはもとより世界に発信していくような、名だたる国際アート展よりも意義ある賞になるのではないか、という期待も聞かれました。

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鼓童によるパフォーマンス
授賞式の最後は、伝統文化大賞受賞のアース・セレブレーション実行委員会を代表し、鼓童のメンバーにより笛と太鼓の演奏が披露され、迫力あるパフォーマンスに盛大な拍手が送られました。



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      (読売新聞 2009年6月28日)

ティファニー財団賞伝統文化大賞

アース・セレブレーション実行委員会(新潟県佐渡市)

「たたく」をテーマに国際的アーティストを招き、佐渡の豊かな自然を舞台に新しい地球文化、地域文化を探る国際芸術祭である。1988年から太鼓を中心とした音楽芸能活動で世界を舞台に活躍している「鼓童」が、その本拠地を佐渡の旧小木町へ移したことをきっかけとして始まった。当時、島内10ヵ市町村との共催によって開催された「アース・セレブレーション」は、当初から世界の音楽・芸能が佐渡に集う芸術祭として行われた。文化や人との交流を通して地球規模の絆を深め、佐渡の豊かな自然環境を背景に佐渡を世界へアピールし、地域社会の発展に寄与することを目的として発展を続けている。

鼓童と海外のゲストとのパフォーマンスを「観る」以外にも、「参加する」フェスティバルを目指して、ゲストの故郷に伝わる芸能や佐渡古来の伝統芸能も体験できるワークショップや、佐渡ならではの手作り露店がならぶマーケットを開くなど、人々の交流の場を提供し、地域の振興と佐渡市民の一体感の醸成に寄与している。

一方、佐渡市では「環境の島・エコアイランド構想」のもと、自然と人が共生する島づくりを行っており、アース・セレブレーションでもゴミのリサイクルやリユースカップの導入などゴミの減量化に努め、さらにトキ放鳥エリアの森林保全にも協力している。

ティファニー財団賞伝統文化振興賞

チーム黒塀プロジェクト(新潟県村上市)







城跡、武家屋敷、寺町、町人町という城下町の4つの要素が残る村上市で、歴史ある安善小路をより魅力的にしようと、住民の力でブロック塀を黒塀に変える景観活動を行っている。

商店街のシャッター通り化が進むなかで、1998年より、町屋の生活空間を公開する「町屋の公開」が市民の力で始まった。町屋の素晴らしさは建物の外観だけでなく室内にあることに注目し、地域の伝統的な町屋を一般観光客にまで公開する「町屋の人形さま巡り」、「町屋の屏風まつり」を次々と成功させた。

こうした成功を受けて、景観を美しくする景観まちづくりへの機運が盛り上がり「黒塀プロジェクト」が立ち上がった。村上の寺町に続く安善小路は、重要文化財の寺や古民家、風情ある割烹などが残る歴史を感じさせる通りであったが、これらを取り囲む塀のほとんどはありきたりのブロック塀で、景観美が損なわれていた。

昔ながらの黒塀を取り戻したい、という住民が2002年にチーム黒塀プロジェクトを結成。資金ゼロの中から、「黒塀一枚千円運動」というユニークな運動を展開し、市民から広く寄付を募ってそれを基金とし、既存のブロック塀を壊さずにその上から板を打ち付け黒く塗るというシンプルな工法で黒塀づくりが行われだした。

この工事は大工任せではなく、子供からお年寄りまでが自分たちで作業をおこなっている。7年間で約1,000名の市民から寄付を得て、現在までに340mの黒塀が完成した。2008年からはより美しい小路をつくるため、植樹による緑化を進める「緑3倍計画」が開始された。今後は緑化活動と共に、新たに黒塀をつくっていくのではなく、黒塀そのものの質の向上を目指している。

講評

南條史生、森美術館館長 [選考委員長]

1971年に佐渡で佐渡の國鬼太鼓座として、日本の伝統的な太鼓を用いたパフォーマンス活動を始めた鼓童は、1988年に鼓童文化財団の拠点となる鼓童村(事務所、練習施設等)を佐渡の旧小木町に開村した。出発点からこれまでの発展的・継続的活動は長期にわたり、あらためて評価に値する。城山コンサートをメインイヴェントとするアース・セレブレーションは、そうした活動を毎年、イヴェントとして集大成するものであり、国際的な芸能の交流と、地元佐渡の伝統芸能の双方を内外から来訪する観客に紹介し、また振興する継続的な基盤となっている。このイヴェントは、伝統芸能を国際的な広がりをもって、誰もが楽しめるイヴェントとしてプロデュースし、大量の集客にも成功しており特筆に値する。こうした活動を通じ、日本の伝統に基づいた新しい音楽の可能性を開き、それを国際的に広め、きわめて継続的な発展へと導いた。

ひなびた古い城下町であった村上市は、再開発に直面し、地元の郷土食である伝統的鮭製品の加工販売業15代目の吉川真嗣氏を中心に、城下町としての町並み再生に取り組んだ。当初様々な伝統文化の再生とそのPR、それを元にした観光産業の振興を実施したが、その手法の一つとして、黒塀プロジェクトを発案、推進した。このプロジェクトは、黒塀1枚1,000円運動で寄付を呼び掛け、黒塀の設置に同意した家の塀を、市民の資金で黒塀に変えていくというもので、現在、黒塀の総延長は340メートルとなり、黒塀の外観にマッチするような形での緑化運動も進められている。多くの市民の参加を促しつつ、きわめて安価に、デザイン的効果を上げたアイデアは賞賛に値する。同グループはこの黒塀プロジェクトのみならず、町屋の公開、春と秋のイベント、町屋再生プロジェクトなど、「街のもつ魅力を守り、活用する=街を昔のように古くする」ことで、観光資源を作り出した創造力と実行力は多くの他の地方都市にとって、見習うべきモデルともなり、高く評価したい。

田中優子、法政大学教授

第二回ティファニー財団賞 伝統文化大賞にふさわしいと判断したのは、新潟県佐渡市で展開しているアース・セレブレーションであった。私は、今回の伝統文化大賞はこの催しに対してだけでなく、活動の基盤になっている佐渡島の各集落の鬼太鼓祭、その担い手たち、能舞台や寺社を守ってきた島の人々、能、狂言、文弥人形、説経節、文弥節、おけさなど、独特の文化を活かし続けている佐渡島の人々とその文化レベルの高さに対してのものである、と考えている。アース・セレブレーションはその基盤があってこそ、実現していると思われる。単なる観光地としてでなく、日本文化の中心軸のひとつとして、佐渡はもっと世界に知られるべきであろう。市の方針ともなっている「環境の島・エコアイランド構想」も、賞が注目したところであった。伝統文化とその新しい表現、農業、自然、環境など、これからの日本がめざすところを、ぜひ佐渡全体で牽引してほしい。

第二回ティファニー財団賞 伝統文化振興賞に選んだチーム黒塀プロジェクトは、そのアイデア、美しさ、簡便さ、今後の普及の可能性など、どの側面から見ても卓越していた。難しい高価なことを考えなくとも、この方法で多くの町の伝統的な美しさが蘇ると思われ、日本の町全体の美しさを引き上げる可能性がある、という点で社会的貢献度が極めて高い。

日比野克彦、アーティスト; 東京藝術大学教授

アース・セレブレーション:「たたく」というシンプルな共通項で小さな島と世界とを繋いでしまうのは見事。誰のなかにもある原初のイメージを引き出すという方法のもつパワーを見せつけられた。普段なじみのない国、地域からアーティストを呼んでいるのも興味深い。佐渡だから感じられることがあると思います。出向いていくだけでなく、迎え入れることを積極的に行うべきだという説得力のある事例と思いました。

チーム黒塀プロジェクト:非常にシンプルな活動から、市民の人たちと効果の実感を共有し、活動領域を拡大して徐々にムーブメントをまきおこしていく様子に、とても共感をもった。はじめから大風呂敷を広げるのではなく、簡易だが、ポイントを絞った方法で実施、成功しているのは、他の市町村や団体にもおおいに参考になる。