第3回ティファニー財団賞―日本の伝統文化と現代社会―

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第3回ティファニー財団賞受賞者のみなさん
2009年12月から2010年2月にかけて、対象となる分野の専門家および各地域の関係諸団体に対して本賞にふさわしい団体の推薦をいただき、また過去に十分な実績がある組織のうち本賞の趣旨にかなう組織に対して自薦を(財)日本国際交流センターからご依頼し、伝統文化大賞には30件、伝統文化振興賞には54件にのぼる推薦をいただきました。推薦を受けた全ての団体について、事務局選考の後、当センターが委嘱する3名の有識者による審査を経て、第3回ティファニー財団賞受賞団体は、伝統文化大賞が京町家再生研究会、伝統文化振興賞が赤煉瓦倶楽部舞鶴に決定しました。

2010年6月29日火曜日に東京都内で開催された授賞式では、最初に本授賞式のために来日したティファニー財団プレジデントフェルナンダ・ケロッグ氏、続いて(財)日本国際交流センター理事長山本正からのあいさつののち、在日米国大使館のフィリップ・ホフマン広報・文化交流担当公使より祝辞をいただきました。

3度目の授賞式となる今回は、ティファニー財団賞の取り組みをより深くご理解いただくべく、ティファニー財団の活動や、これまでの受賞団体の紹介をさせていただきました。 その後、受賞2団体に、ティファニー社製トロフィー、賞金200万円の目録が贈呈され、団体を代表し、小島富佐江京町家再生研究会事務局長と日向進赤煉瓦倶楽部舞鶴理事長が喜びの言葉を述べられました。

最後に、選考委員長の南條史生森美術館館長より、受賞団体についての講評が行われ、京町家再生研究会については、町家という"はこ"だけではなく、人々の生活をも再生しようとする姿勢、赤煉瓦倶楽部舞鶴については、赤れんがの建造物を保存することで人が集まる場所を作り出している点などを評価したことが説明されました。また、今後のティファニー財団賞に対する期待も述べられました。 今回は欠席となった選考委員の田中優子法政大学教授からはビデオメッセージ、アーティストで東京藝術大学教授の日比野克彦氏からは文章でのメッセージが披露されました。メッセージの中ではそれぞれ、伝統を現代にいかすことが新しい何かを生み出す大きな可能性を持っており、ティファニー財団賞がそのような活動を着目することで果たすことのできる役割についての期待が述べられました。


ティファニー財団賞伝統文化大賞

京町家再生研究会(京都府京都市)

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研究者、技術者、町家居住者たちが集まり、京町家の保全再生に向けて調査、研究、提言、広報などの活動を展開している。

町家とは、町中(まちなか)の道に面した職住兼用木造家屋のことで、京都でも特に上京区、中京区、下京区にその典型が多く見られる。そういった京町家は、さまざまな原因で年間2パーセントずつ減少しており、今では2万5〜6000軒ほどになっている。京都市中心部の美しい町並みと職・住・遊の均整のとれた環境は著しく悪化しており、失われゆく町家と町並みを保全・再生するために、京町家再生研究会では調査研究、再生実践(改修)、広報などさまざまな活動を展開している。伝統的町家の継承のためには、町家を昔のままただ保存するだけではなく、そこに暮らす人々の住まいやすさ、安全性などを確保する必要がある。京町家再生研究会では、本来職住共存の場であった町家を新しく活用する方法を考えることを試み、長年にわたって京町家の中に蓄積されてきた暮らしと建物の様々な知恵や工夫を再評価し、それを現代に生かす形で町家を継承していくことを目指している。

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町家が持つ本来の魅力を再評価する動きがある反面、居住者の高齢化にともない、住みつづけることが困難になってきている町家が急速に増えており、次の世代にその町家を引き継いでいくことが急務となっている。また、町家を取り巻く法的な整備が遅れており、町家改修の際に融資が受けにくいことなど資金調達も大きな問題であり、新たに町家再生に管理信託を導入する試みなどを検討している。

ティファニー財団賞伝統文化振興賞

赤煉瓦倶楽部舞鶴(京都府舞鶴市)

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明治から昭和初期に建てられ市内に数多く残る赤煉瓦建造物を保存し、赤煉瓦を活かしたまちづくりを進めている。毎年夏には赤煉瓦ジャズ祭を開催するほか、赤煉瓦の保存活動をはじめ、調査・研究、シンポジウム、ライトアップ等の実施、赤れんがフェスタへの参画など様々な取り組みを進めてきた。また、2000年8月にはNPO法人格を取得し、行政、企業、市民らとともに、赤煉瓦を後世に引き継いでいけるよう活動している。

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市職員の有志によるまちづくりの研究会で他のまちとの違いや個性を考えるうち、赤煉瓦の価値とその希少価値を見出し、保存・活用のための活動が開始された。活動当初に実施された市民アンケートでは、市民の舞鶴に対するイメージは、暗い、灰色、引揚、岸壁、という回答が多かったが、ライトアップや市内にある赤煉瓦建築のマップ作りを行ったことなどにより、市民の中に、「舞鶴にこんなに赤煉瓦の建物があるのだ」という気付きが生まれた。そして、赤煉瓦に対する意識も、暗いものから明るく次世代へつながるイメージへと変化していく。1991年からの20年にわたる舞鶴市との地道な協働の結果、2008年には7棟の赤煉瓦建造物が一度に国の重要文化財に指定されるなど、活動開始当初の赤煉瓦建造物の保存という目標はある程度達成された。まちづくりの装置・舞台が整った今、市全域に視野を広げ、さらに人が集うまちづくり、誇りを持てるまちづくりの実現を目指している。

講評

南條史生、森美術館館長 [選考委員長]

長い歴史のある京都には多様な文化遺産が残っており、世界的に見ても魅力的な観光資源であるが、それが近代化の過程と経済不況の中で、急速に失われていることを憂う人は少なくない。その中で京町家再生研究会は、京都の町家の修復・保全を、永続的な活動として実施しており、その意義は大きい。また町家を単に建築というハードとしてとらえるのでなく、通常の生活の中で、町家における暮らしを維持しつつ、高い見地に立ってこの活動を広げている。その結果は町の文化価値、生活基盤としての価値、不動産価値を高めることにつながっている。将来に向かって古都京都の価値を確保していくことは観光立国を目指す日本の国にとってもっとも重要な方向だといえるだろう。また、このような取り組みは、日本各地の街並保存運動のために、きわめて参考となる方法論であり、その意味で、広く知られるべきだと考える。今後、修復・保全に加えて、未来の「人の生き方」につながる新しい町家の使い方、都市作りへの提言を理念化していけば、より意義深い活動になるだろう。

赤煉瓦倶楽部舞鶴の活動は、舞鶴に残る多数の赤煉瓦建造物を保全・再生し、港町の持つ特徴を文化遺産として再認識させる運動である。近年、日本の近代建築の文化的、歴史的価値を認め、保存していこうという運動が活発である。そうした観点から見ても、これらの建築群を保存し、利用していくことは意義深い。この運動も、やはり観光立国を目指す日本の、新しい観光資源の創出につながるだろう。 また一方活動の内容を見てみると、これらの赤煉瓦建築の価値を保全・再生するだけでなく、これを利用して多くのイヴェントを展開し、赤煉瓦の建物をある種の文化的なプラットフォームに転換している。これは歴史遺産を実際に市民活動に使える新しい文化装置に転じていく活動として意義が深い。こうした活動を通して、市民生活の新しい形、新しい楽しみ方を作り出すことを試みていることを評価した。

田中優子、法政大学教授

「京町家再生研究会」の活動は、まことに京都らしく、民間が結束してすすめてきた。京都は伝統的建造物が多く、消滅に危機感があったろうが、その危機感を単に抱えているだけでなく、人々が集まり、相続税という現実的な問題への対応や、維持するための貸与の相談も受けながら活動してきたという。生活する人々に密着した極めて自然で現実的な方法が見事だ。町家悉皆調査をデータベース化しており、研究業績としても注目すべきものがある。伝統工法での再生は資金が必要だが、通常の住宅用融資を受けることができない。そこで町家証券化を試みたり、信託に挑戦する予定を立てたり、従来にない方法の開拓が面白い。他の再生活動の手本になるであろう。町家は、季節感や空間時間にめりはりのある生活感覚を養うという意味で、子供や若者に最適な建築物であり、精神的なものの継承においても、極めて大きな意味をもつ活動である。

「赤煉瓦倶楽部舞鶴」の活動は、舞鶴市の職員の研究会から始まったという。軍事基地として栄えた町、つまり国に依存してきた町が、暮らしやすい個性的な町として生まれ変わることは、たやすいことではなかったろう。若者が流出し、その危機感が活動に繋がったという。赤煉瓦の希少価値を発見するに至り、職員から始まった研究はついに市民活動に転換した。赤煉瓦やホフマン窯の保存活動だけでなく、とりわけジャズ祭、現代アート展、ライトアップ、マップ作りなど、活用活動が優れている。その活用があってこそ、市民に広がり、市民活動として定着したのだと思う。単なる観光化ではなく、国際交流と芸術活動の場となっており、大きな将来性を感じる。

日比野克彦、アーティスト; 東京藝術大学教授

今回の受賞は共に建築物の再生である。建物は人が空間を利用する時に、機能を特化させるためにつくる。建物を何も作らなくても人は生きていける。人が空間に求めるものも建築物がなくても、なんだかんだある程度は獲得できるであろう。今回の二つを例にとってみるならば、人間がそれなりに快適に生活する為に京都の町家は建てられた。長細い地形や、中庭などの特徴は、時間の中で生活することによって変化させてきたのだが、その変化のベクトルを使用者の精神も含めて反作用していけば、そこが更地であっても人は生活していける。舞鶴は物を保管する為に、赤レンガという材料で、囲われた大きな空間が建てられた。しかしこれも同じ理屈で、逆方向にベクトルが動けば、そこが更地でも物は置ける。建物が建てられた当時のように使用されなくなってきたから、建物がなくなるというのは当たり前である。そんな機能しなくなったものは更地の状態と同じであるかそれ以下である。ある機能を特化させるために建てたのだから、その機能が失せれば建物は消えていくのが常である。機能しない建物をいつまでも建てていたら、誰もそこにはこなくなる。そして廃墟となりゴーストタウンになっていく・・・これは悪いことではない、人は移ろいでいくものであるから、それでよい。世界中の建物のほとんどは建てられてはそして、時間が経つと壊されていく。

しかし町家と赤レンガは時間の常識にはむかっていこうとしている。これには自然の摂理に逆流するとてつもない「力」が必要である。
その力がこの二つにはある。
町家と赤レンガは1000年たってもそこにある!!
そのつもりでやりましょう!