(財)日本国際交流センターは、2010年8月19日、セミナー「地域再生に向けて−伝統文化の新たな可能性−」を開催しました。これは、米国のティファニー財団との共同事業として2007年に設立した「ティファニー財団賞−日本の伝統文化と現代社会−」(概要)が今年3回目の授賞式を終えたことを一区切りとして、本賞について考える機会を持ち、対象とする日本の伝統文化の現状とその新たな役割や可能性について議論を深めることを目的として開催したものです。

議論概要

第1部では、過去の受賞団体を代表して3団体の方に、活動の歴史や内容、ティファニー財団賞受賞後の変化等について発表していただきました。

美濃和紙あかりアート展実行委員会(第1回伝統文化大賞受賞)実行委員長の 深和昌司(ふかわまさし) 氏は、イベントの成功要因の一つとして、当初は地元の有力者から構成されていた和紙あかり作品の審査員にプロのアーティストを起用したことを挙げました。この決断は時に困難を伴うものでしたが、最終的にはアマチュアのイベントからプロも参加するアート・コンテストにまでイベントの質を高めることにつながったということです。ティファニー財団賞受賞後、2010年に国土交通省の地域づくり表彰特別賞を受賞したほか、トロフィーを展示する美濃和紙あかりアート館を天皇皇后両陛下が訪問されるなど、美濃和紙あかりアート展実行委員会は全国的に知られるようになりました。チーム黒塀プロジェクト(第2回伝統文化振興賞受賞)の 吉川真嗣(きっかわしんじ) 氏は、観光客を呼び集めるきっかけとなった人形様まつりや屏風まつりから、現在では340メートルの壁の外観が地元住民の資金によって黒塀に変わった黒塀プロジェクトまでの村上市における取り組みを説明しました。これらの街づくりの努力は、チーム黒塀プロジェクトからやがてコミュニティぐるみの活動への動きを生み出し、住人たちが自主的に壁や自宅を伝統的なスタイルに改築し始めるまでになりました。京町家再生研究会(第3回伝統文化大賞)事務局長・理事の小島冨佐江氏は、町家を保全する活動において、町家の住人がその活動主体であることを認識することの重要性を強調しました。また、これまで、どのようにして町家の住人の信頼を築き、自分たちの住まう家屋の価値を認識してもらうに至ったかを説明しました。最近の活動成果とこれまでの努力が認められ、京町家再生研究会は今年、米国のワールド・モニュメント財団から助成金を受けることが決定しました。この助成は町家再生のための資金としてコミュニティのハード面を支援するものですが、一方でティファニー財団賞はコミュニティのソフト面を強化する、つまり、町家再生・保全活動に関わる全ての人々に自信を与えるものであったと評価しました。

第2部と第3部では、受賞団体の活動報告を受けて意見交換を行いました。その中で、日本が経済停滞や高齢化などさまざまな課題を抱える今日、地域の再生・活性化は日本の将来への鍵となる、との意見の一致を見ました。受賞団体の発表を受けコメンテーターからは、地域活性化と地域活性化による住民の幸福は、地方が経済的に潤うことだけを意味するのではなく、住民が地域社会の一員として貢献できるようになることにもつながるとの意見が述べられました。これに同調し、「人中心」の活動の重要性も指摘されました。ティファニー財団賞の受賞候補となる団体の活動はみな、地域における人々の生活に深く根付いているものであり、その点がティファニー財団賞を非常に重要かつ特別なものにしているとしました。

活動が地元にもたらす経済的効果という点について、吉川氏は、さまざまなイベントの開催と黒塀プロジェクトに関わる活動が、寂れていた町に多くの観光客をもたらしたと説明しました。小島氏は、京町家再生研究会の活動により多くの人々が町家に住み続けるようになってきたことが、地元の大工・職人たちが仕事を取り戻すきっかけとなったと述べました。また、不動産価値という点において、ただの古民家だから壊すということではなく、町家であることがセールスポイントへと変化したと述べました。深和氏も含む3氏は揃って、団体の活動が地域住民に与えた心理的インパクト=町への誇りと自信の重要性を強調しました。

選考委員からは、ティファニー財団賞が、古く時代遅れのものが実は地域の文化的財産であると気付くきっかけとなる可能性を指摘しました。さらに、自分たちの住む地域の独自性や歴史を発見することの大切さについても言及がありました。これは過去の受賞団体が成功していることであり、受賞団体が地域の活動でリーダーシップを取り今後日本各地のさまざまな地域活動の質の向上に貢献することへの期待が述べられました。

伝統文化を活用する活動においては、ティファニー財団賞が特に着目している視覚的な美しさとデザイン性も重要であると強調されました。デザインというものは全ての人間の創造における不可欠な要素であり、地域が持つ文化的財産にいかに美しさを見出しそれを地域の生活様式に取り込んでいくかということが地域活性化において必須であるとの意見がありました。

会場の参加者からは、ティファニー財団賞が注目する地域の伝統文化を守りそれを現代社会にいかしていくという取り組みは、日本が文化遺産を守るモデルとなり海外での開発援助や国際協力の分野で活かすことができるのではないかとの声が聞かれました。

プログラム
14:30主催者挨拶
14:45-15:30  第1部 受賞団体活動報告
15:40-16:10第2部 「伝統文化と地域活性化に向けて」
16:10-17:30第3部 パネルディスカッション
  • パネリスト(1〜3回目ティファニー財団賞受賞団体)
    • 美濃和紙あかりアート展実行委員長  深和昌司 (岐阜県美濃市)    
    • チーム黒塀プロジェクトメンバー  吉川真嗣 (新潟県村上市)
    • 京町家再生研究会事務局長 小島冨佐江  (京都市)
  • コメンテーター (五十音順)
    • 椎川忍  総務省自治財政局長(前地域力創造審議官)
    • 田中優子  ティファニー財団賞選考委員、法政大学教授
    • 日比野克彦  選考委員、東京芸術大学教授
  • モデレーター
    • 南條史生  選考委員長、森美術館館長