活動報告

日本国際交流センター(JCIE)は、2021年11月15日、東京栄養サミット2021を前に、エチオピア保健大臣、女性・子ども・青少年のためのグローバル・ファイナンシング・ファシリティ(GFF)ディレクターにオンラインでご参加いただき、国会議員を対象とするウェビナー「新型コロナウイルス感染症によって悪化した女性、子ども、青少年の栄養と健康をいかに守るか―強靭で包摂的な医療体制の構築を支援するGFFの取組み―」を開催しました。本ウェビナーは、母子・青少年の保健及び栄養、性と生殖に関する健康の改善を目的とする各国主導型の資金調達パートナーシップ「女性・子ども・青少年のためのグローバル・ファイナンシング・ファシリティ(GFF)」に対する支援体制強化事業の一環として実施したものです。

 

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要旨

2020年に起こった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はその直接的な影響のみならず、それによる医療体制全体の逼迫・崩壊によっても多くの命を奪っています。一部の最貧国では、基礎的な保健医療サービスへのアクセスの欠如に起因する死者数が、COVID-19による死者数の2倍以上に上ると推定されています。こうした状況に対応するため、GFFは、12億ドルの緊急増資キャンペーンを開始しました。

 

本ウェビナーでは、冒頭、国際母子栄養改善議連会長を務める山東昭子参議院議長が、終戦直後から実施されている日本の栄養分野での取組みについて共有した上で、日本の対外支援における栄養分野への投資割合の少なさを指摘し、先のIMF・世銀総会で発表されたGFF(5,000万ドル)並びに栄養改善拡充のための日本信託基金(2,000万ドル)への追加拠出が、日本の追加的コミットメントへの弾みになるよう期待を述べました。

 

それに続いて、GFF投資グループ共同議長を務めるリア・タデッセ・ゲブレメディン エチオピア連邦民主共和国保健大臣、フアン・パブロ・ウリベ GFFディレクター兼世界銀行保健・栄養・人口グローバル・ディレクターから、以下のスピーチがありました。

 

リア・タデッセ・ゲブレメディン エチオピア連邦民主共和国保健大臣
  • [女性・子ども・青少年の健康・栄養状況]過去30年間の取り組みによって妊産婦死亡率は50%以上減り、5歳未満の子ども死亡率もMDGゴール4の目標を達成、家族計画サービスの利用率も4%から36%に改善した。栄養の面でも、5歳未満の子どもの発育阻害の比率が2000年の58%から2019年の37%に減少し、消耗症の比率も11%から7%に減少している。しかし、こうした成果が大きく後退する危機に直面している。
  • [COVID-19への対応]こうした危機に対して、エチオピアでは、GFF等のドナーの協力を得て、政府のリーダーシップの下、タスクフォースが立ち上げられ、COVID-19が必須医療サービスに与える影響をモニターし、酸素や必須医薬品、ワクチンの確保を優先することで、医療提供現場の混乱を収束しつつ、栄養を含む必須保健医療サービスへのアクセスを回復させる努力が進められている。
  • [栄養分野の取組み]栄養分野では、2030年までに2歳以下の発育阻害を終わらせることを約束したセコタ宣言の下、過去5年間、保健、教育、農業といった9つの省庁を巻き込んで、栄養及び保健の社会的決定要因(SDH)に取り組むことで、発達阻害が顕著であった地域でその比率が15%まで減少した。加えて、保健システムの根底にあるプライマリ・ヘルス・ケアを改善する戦略の中で、医療施設やコミュニティにおける水と衛生状況の改善を優先課題として位置づけることで、コミュニティの栄養状況にも大きなインパクトが出ている。また、日本が支援する「食と栄養のアフリカ・イニシアチブ(IFNA)」のお陰で、青少年の栄養改善に必要な食事の多様性や、補完食品、妊産婦の栄養を中心とした優先課題を特定し、エチオピアの状況に合った活動計画が策定された。
  • [GFFの役割]援助効果を高めるためには、国際機関との連携が必要であり、連携を後押しするGFFの貢献は大きい。低・中所得国は、感染を食い止める適切なタイミングで自国民にケアを提供するためのリソース動員や政策変更ができない。その際、GFFのような政府の優先順位に沿った、政府のシステムを通じて提供される資金があることは、低・中所得国の保健システム強化に繋がる。低・中所得国の制度的なキャパシティを強化し、また説明責任や透明性を高める形で保健システムを改善するための投資を緊急に増やす必要がある。

 

フアン・パブロ・ウリベ GFFディレクター
  • [GFFのアプローチ]GFFのアプローチでは、その国のオーナーシップによる強いリーダーシップの下、収集したデータに基づき、その国の優先課題を特定し、投資効果も踏まえて、投資計画が策定される。また、強力なアドボカシーと多くの政策対話が展開されている。GFFが提供する資金は触媒的な効果を持ち、世銀のような他の組織からより多くの資金が動員される。加えて、パートナーとの連携や協調、市民社会の巻き込みを通じて、保健システム強化といった長期的な影響をもたらす。その強靭なシステムは、将来的なパンデックの備えにも寄与する。
  • [COVID-19対策とGFF]ワクチン、検査といったいずれのCOVID-19対策においても、保健システム構築という長期的な視点が持たれ、パンデミックを克服する努力が他のサービスにも長期的な効果をもたらすようにすることが重要であり、GFFはACTアクセラレーター(ACT-A)における保健システムコネクターとも協働している。
  • [GFFの栄養分野の取組み]栄養の分野においては、母子のための継続的なケアに栄養を統合していきたいと考えている。GFFの資金の約3割が栄養関連の活動に充てられているが、栄養改善拡充のための日本信託基金等の他の資金との相乗効果を図り、また、民間セクターの支援を動員する革新的な資金メカニズムの導入によって、栄養分野でのインパクトを飛躍的に高めることを目指している。
  • [今後の戦略]GFFは、2025年までの戦略を策定し、COVID-19前の成果を取り戻すべく、12億ドルの増資を訴えている。これにより、500万人以上の命を救い、重点国において180億ドル以上の資金を女性、子ども、青少年に対して動員することが可能となる。

 

2人のスピーチに続き、参加した国会議員との間で、エボラ出血熱の経験が与えた影響、紛争地域における子どもの栄養状況、日本に求められる支援等について、質疑応答が行われました。

 

最後に、当センターシニア・フェローでもある武見敬三参議院議員から、日本は、財務大臣による保健問題への関与を奨励することで、各国における保健予算の拡大を図ってきたことが紹介され、GFFは、女性・子ども・青少年の健康と栄養に対して一定の資金力を梃により多くの資金を動員する、まさに日本の考えを実現する仕組みとであるとして、敬意が示されました。

 

スピーカー略歴

リア・タデッセ・ゲブレメディン

エチオピア連邦民主共和国保健大臣

2018年11月より保健国務大臣としてエチオピアの保健セクター変革戦略の下で全国保健プログラムの実施をけん引した後、2020年より現職。産婦人科医として、臨床、研究、組織経営の指導者として20年以上にわたる経験を持つ。

 

フアン・パブロ・ウリベ

GFFディレクター、世界銀行保健・栄養・人口グローバル・ディレクター

2018~19年にコロンビア共和国の保健大臣を務めた後、大手医療保険会社United Healthcare/Banmédica向けのチリ及びペルーにおける医療サービス提供機関Heathcare ProvidersのCEOを務め、2021年9月より現職。公衆衛生及び行政学の専門性を持つ医師としてキャリアをスタートし、その後、公的・民間セクター、世界銀行において、公衆衛生、保健システムや公共政策の分野で多くの実績を持つ。

 

出席議員(五十音順)

逢沢 一郎 衆議院議員(自由民主党)
今井 絵理子 参議院議員(自由民主党)
川田 龍平 参議院議員(立憲民主党)
桜井 周 衆議院議員(立憲民主党)
山東 昭子 参議院議長(自由民主党)
高橋 光男 参議院議員(公明党)
武見 敬三 参議院議員(自由民主党)
田島 麻衣子 参議院議員(立憲民主党)
谷合 正明 参議院議員(公明党)
古屋 範子 衆議院議員(公明党)

 

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