活動報告

 

日本国際交流センター(JCIE)では、2017年9月11日~17日にかけて、6名の女性政治家と1名のジャーナリストの参加を得て、日米女性リーダー・ダイアローグ・プログラムをワシントンとニューヨークにおいて実施しました。

 

本事業は、JCIEが1968年より実施している「日米議員交流プログラム」および2016年に開始した「ダイバーシティ推進プロラム」の一環として行われたものです。JCIEでは40年以上にわたり約200名の国会議員を派遣してきましたが、その歴史の中で初めて女性のみをメンバーとする訪米ミッションとなりました。

 

女性の活躍を如何に推進していくか、また、多様性とともに受容性豊かな社会を築くためにどのような政策を推進していくべきか、米国社会において同様の関心と役割を果たしている政治家、教育者、企業家、NPO、シンクタンク、ジャーナリスト等と、1週間の間に20近くの密度の濃い対話を重ねました。これまでの議員交流は、外交・安全保障、経済、日米関係等が議論の中心となることが多かったのに対し、今回は女性議員によるミッションであったため、これらのテーマに加え、女性問題、子どもや社会福祉など女性議員が抱える問題が議題となりました。日米関係の文脈ではあまり議論することのない分野も話題のぼり非常に新鮮だったという感想が、ワシントンの多くの関係者から聞かれました。

 

尚、本事業はJCIE及び米国法人日本国際交流センターの共催、(公財)渋沢栄一記念財団、(一財)MRAハウス、米国ヘンリー・ルース財団の助成、ANAホールディングスの協力により実施いたしました。

 

参加者、プログラム、主催者として同行したJCIE勝又専務理事による主な会合の総括は、以下をご覧ください。

 

参加者

 

野田 聖子 衆議院議員(自由民主党)
猪口 邦子 参議院議員(自由民主党)
自見 はなこ 参議院議員(自由民主党)
竹谷 とし子 参議院議員(公明党)
伊藤 孝江

参議院議員(公明党)

伊藤 孝恵 参議院議員(民進党)
道傳 愛子

日本放送協会(NHK)国際情勢担当解説委員

勝又 英子 JCIE専務理事・事務局長(主催者)

 

(所属はプログラム実施時・敬略称)

 

 
 

主な会合の総括

 

(公財)日本国際交流センター専務理事

勝又 英子

ワシントンでの対話

プログラムは、アメリカにおいて今や女性政治家支援で最大級の政治活動団体である「エミリーズ・リスト」(Emily’s List)でのブリーフィングからはじまりました。32年前の団体発足当初は、お金も後ろ盾もないが政治を通じて世の中を変えようとする民主党系の候補者の資金援助からはじめ、現在では政治家としてのトレーニングも含めた支援活動を行っています。現在大きな政策課題である妊娠中絶を〝プロチョイス“(母体の選択権を優先)として推進する候補者を支援しています。トランプ政権の誕生により女性候補者への支援の重要性が一層増したとの認識の中で、どのようにして候補者を掘り起こし、支援していくか等、日本側参加者はさまざまな質問を投げ、その資金力、組織力に彼我の差を強く感じたブリーフィングでした。

 

米国では女性の政治進出が進んでいるように思われがちですが、実は女性議員の数は世界100位前後に甘んじており、いまだに日本と同じような課題を抱えています。議会における女性議員の地位を向上させるためには女性議員の連携が必要と説く女性議員連盟の民主党側代表のロイス・フランケル下院議員、また、早朝の委員会が始まる前に集まってくれたダイアナ・デゲット下院議員、スザンヌ・ボナミチ下院議員、スーザン・デービス下院議員など、子育て、ワークライフ・バランスを政治活動の中でどのように解決していくか、どのように克服してきたか、自らの経験も含め、率直かつ熱意をもって話してくれました。

 

また、女性議員にとり身近な課題に限るのでなく、外交・安全保障の問題にも多くの時間を割きました。コーリー・ガードナー共和党上院外交委員会東アジア太平洋小委員会委員長との懇談では、北朝鮮情勢と米国の対アジア政策、日米協力などの外交問題についても意見交換を行いました。ブルッキングス研究所やウッドロー・ウィルソン・センター、グローバル開発センター等のシンクタンクでは、北朝鮮問題やトランプ政権下の米国の政治・社会課題にシンクタンクとして如何に対応しているかを議論しました。トランプ政権の今後の行方は日本側の大きな関心事であり、それぞれの懇談で質問をなげかけましたが、未知数という回答が多くを占めました。

 

 

山本正記念セミナー

JCIEの創設者である故山本正初代理事長を記念して、JCIEと米国外交問題評議会ワシントン事務所との共催で毎年実施しているTadashi Yamamoto Memorial Seminarを9月12日に開催し、今回訪米団のメンバーをパネリストに迎えました。女性国会議員からは、なぜ国会議員を目指したのか、どのような政治課題を実現しようとしているのか、それを阻むものは何か等について率直な発表が行われ、米国においてもまだ同様の状況がみられると参加者から多くの共感を呼びました。また、代表団メンバーの一人であるNHK解説委員の道傳愛子氏より日本のジェンダー、ダイバーシティの現状、また、女性にとり大きな影響のあるワークライフ・バランス、少子高齢化などの社会課題に付随するさまざまな問題をどのように改善していくべきか、その中での女性の役割について報告を行いました。

 

 

ニューヨーク・プログラム

ニューヨークでは、人々の生活に密着している現場を視察するために、ブロックデール大学病院を訪問し、貧困層の母子の健康支援プログラムを視察しました。ニューヨーク市との連携で医師、看護師、ソーシャルワーカー等が連携して実施しているプログラムで、貧困地域で重要な役割を果たしています。どのような基準で支援を行うのか、貧困というプライバシーと深く関わる課題をどのように解決していくのか、等についての議論が行われました。

 

9-11トリビュート・ミュージアムの視察は、とりわけ深い感慨をメンバーに残しました。当日消防隊の一部隊を指揮し、多くの隊員を失った女性団長に当時の経験談と、このような悲劇のトラウマにどのように向き合っていくかについて話をしていただきました。同じような経験をしたであろう東日本大震災の石巻をはじめとする被災地を毎年訪問し、経験を分かち合うというボランティア活動をしているということでした。また、メモリアル・サイトのプールの縁には亡くなった人の名前が刻まれており、ところどころに白いバラがつけられていました。皆同じ日に亡くなったが、生まれた日はそれぞれ、一人ひとりのかけがえのない命が奪われたのであり、一人ひとりに思いをはせるため、誕生日の人のところに白いバラをつけるのだそうです。

 

ジャパン・ソサエティ、シティ・グループとの協力によるビジネス・セクターの代表とのラウンドテーブル、女性のキャリア推進をグローバルに展開しているNGOのカタリストとの対話では、米国の企業におけるダイバーシティ推進について意見交換を行いました。企業においてはダイバーシティは当然であり、その先の“Inclusion(包摂)” が重要であるとの見解が多く聞かれました。ダイバーシティは達成できても、公平で公正な環境が整っているとはいえず、たとえば、マイノリティで女性の場合は、二つの障壁を乗り越えねばならないとの意見もありました。

 

女性をターゲットとする二つの企業およびその財団の訪問は、代表団にとっても興味深いものでした。エスティローダー社では、創立者のエスティ・ローダーの息子である会長とその孫息子の社長、およびスタッフとの懇談を行いました。女性だけでがんばるのではなく、男性も率先してダイバーシティと包摂を実践することにより、企業の健全化と業績向上につながるという確信をもって事業を展開していると話してくれました。女性向けのファッションブランド、アイリーン・フィッシャーの財団では、創立者のアイリーン・フィッシャーがメンバーと懇談を行いました。彼女の衣服に具現化されたコンセプトは、“風のようにしなやかに、束縛されない”、女性の自己実現を目指すというもので、そのような人間性をはぐくむ衣服をつくり、職場をつくること、という話にメンバーは大いに共感しました。

 

 

ポカンティコ・ダイアログ

プログラムの最後は、9月15日から17日の2日間にニューヨーク郊外のロックフェラー邸会議センターで開催したラウンドテーブル合宿で締めくくられました。野田聖子総務大臣もこの1日半のダイアローグのために駆けつけてくださいました。25名の女性リーダーが一堂に集い、国内政治課題における女性政治家のリーダーシップの発揮、日米同盟とアジア太平洋地域の安定、グローバリゼーションとポピュリズムがもたらす経済、教育、社会へのインパクト、ワーク・ライフ・バランスの挑戦に応える、シェアード・バリューに基づく国際秩序の再構築、など幅広いテーマに沿って、忌憚のない活発な意見交換が行われました。

 

 

最後に

7日間の滞在を通して、メンバーは様々な政治家や政策関係者、NGO、企業関係者等と対話を持ち、女性が抱える課題だけでなく、北朝鮮の核兵器の脅威、貿易、東アジアの秩序などの国際関係や日米相互協力強化の必要性の再確認などを行いました。メンバーからは、自分たちの抱えている問題を米国の参加者とシェアすることができ多くのことを学んだ、これからの議員活動に資するものであった、また、いかにそれをアクションにつなげるか新たな課題を負った等の感想が寄せられました。今回の訪米団は超党派のメンバーにより構成されましたが、党派に関係なく、思いを同じくする女性議員として団結する必要性を再認識したミッションでもありました。

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