活動報告

日本国際交流センター(JCIE)は東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)との共催で公開ウェビナー「Community-Based Integrated Care for Asia’s Aging Populations」(アジアの高齢化と地域包括ケア)を2022年4月26日に開催しました。今回のウェビナーは3月に発表したポリシーブリーフで取り上げた「地域包括ケア」をテーマに、日本、韓国、タイ、ベトナムから専門家をパネリストとして迎え、それぞれの国で高齢者ケアに関する施策がどのように構築されてきたか、特に地域レベルでのケアという視点で議論しました。

 

ウェビナーの概要は以下の通りです。

英文概略および講師略歴はこちらのAHWINウェブサイト(英文)からご覧ください。

 

 

日本語通訳による音声

オリジナル英語版動画はこちら

 

 

概要

 

  • 日本では、高齢者が住み慣れた土地で尊厳をもって生涯を全うできるよう、公的な医療や介護ケア、住居の確保、ボランティア等による介護予防や生活支援等の様々な支援を市町村レベルで包括的に提供する地域包括ケアシステムの整備に国として取り組んでいる。世界的にも、WHOが2017年に発表した包括的高齢者ケア(ICOPE)の指針の中で地域での取り組みの重要性が謳われており、様々な国でその国の状況に合わせて多様な取り組みが展開されている。
  • 戦後日本の高齢者ケア施策は、高度経済成長下で極端に医療化した時代を経て、低成長と少子高齢化が進む中で、改めて地域の資源と人の繋がりから生まれる社会的セーフティーネットに着目した地域包括ケアに至った。そのシステムは地域(市町村)によって千差万別だが、背景には国民皆保険という基盤があり、大災害や感染症流行、さらに貧困化などにも対応する全世代に裨益する形になると期待される。
  • 韓国も日本と同様に急速な人口高齢化により、2026年に超高齢社会を迎える。2008年に導入された介護保険は、それまでのインフォーマルな家族介護から社会的介護への転換の契機となった。政府は全国に高齢者福祉センター、地域医療センター、認知症に特化したカウンセリングセンター、さらに介護施設を整備して、コミュニティーレベルの高齢者ケアの強化を図っている。家族の価値を大事にする韓国社会では医療サービスと家族介護を結ぶ役割として地域包括ケアの役割は大きいが、その持続性と連携協力が課題だ。イノベーションとチャレンジを年々着実に重ねている。
  • ベトナムも急速に高齢化が進む国で、年金も公的介護も未整備な中で、コスト効果の高い地域介護の発想が重要となる。国際NGOヘルプエイジと自治体、ベトナム高齢者協会の連携で高齢者、障がい者も含めたコミュニティ全体をカバーする多世代間自助クラブ(Intergenerational Self Help Club: ISHC)が国家政策のモデルとして採用され、2030年までにISHCが全国各地に設置され、高齢者に保健・ケアサービスを提供する計画だ。多世代のボランティアが中心で、自己資金の創出も工夫して確保している。監督省庁間(ベトナム国労働・傷病兵・社会問題省と保健省)の調整が課題だ。
  • タイは2021年には高齢者人口が20%に達し、超高齢社会に向かっている。認知症対策の国家戦略2021-2025を策定し、医療施設と家庭でのケアを橋渡しする、コミュニティでの中間ケアを重視し、世代間活動、多分野連携メカニズムの形成、市町村レベルでの専任ケアスタッフの整備計画をJICAとの技術協力で推進している。タイに拠点を置くACAI(ASEAN Centre for Active Ageing and Innovation)は2019年設立、アセアンの高齢対策に関する知見の集積、研究・開発、モニタリング、政策支援の拠点作りを展開している。
  • 最後に、地域包括ケアの形成と持続のカギとして、地域ごとに多様なアプローチがあってよい、活動をリードするキーパーソン(医療者・専門家に限定せず)の存在と人材のネットワークが重要であると指摘があった。韓国でも釜山のスマートシティー構想や、ソーシャル・ファミリーの強化など新たな挑戦が始まっている。高齢者ケアでも弱者支援の視点が重要であり、タイでは既存の地域保健システムに慢性疾患対策やファミリケアなどのニーズに合わせた支援チームの強化を通じて弱者もカバーするシームレスな高齢者ケアを展開。財政的持続性の確保についてヘルプエイジでは各地域クラブで既存の社会的サービスとの連携だけでなく、リボルビングファンドやマイクロクレジット、ファンドレイジング等の取り組みを行っている。各国の活動とも高齢者だけでない全世代向けの地域包括ケアを目指すことが重要である。それぞれの経験が他国の参考となることを期待したい。

 

 

登壇者  

◆スピーカー  
 中村 信太郎(モデレーター) 国際協力機構(JICA)社会保障担当国際協力専門員
 迫田 朋子

ジャーナリスト、元NHK解説委員

 ハン・ドンヒ 社団法人老人生活科学研究所(RISBLE)所長
  チュー・ヴィエット・ナー  ヘルプエイジ・インターナショナル・ベトナム シニアマネージャー
 アカラタン・ジッヌヤノン  ASEANアクティブ・エイジング・イノベーションセンター(ACAI)副所長
◆閉会挨拶  
 加藤 拓馬 東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA) ディレクター
   

◆司会

 

 阿部 桃子

(公財)日本国際交流センター(JCIE)プログラム・オフィサー

   
   

 

 

 

 

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