活動報告

日本国際交流センター(JCIE)民主主義の未来プロジェクトは、2023年11月28日に「民主的ガバナンス・普遍的価値観の推進に向けた政策対話」シリーズの第3回として「日本におけるLGBT(*)権利と平等の推進に向けた政策課題」をテーマに、鄧筑媛Joyce Teng)台湾平等キャンペーン事務局長と菅野志桜里 弁護士・一般社団法人国際人道プラットフォーム代表理事をゲストスピーカーに迎え、超党派の国会議員9名との懇談会を実施しました。

 

日本では、2023年6月に「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」が施行されました。しかし、同法に対する評価やLGBTに対する一般社会の理解と受容度は実に多様で、結婚や家族を持つことを含む様々な権利が法律で保護されるまでの道のりは、平坦とは言い難い状況です。国際的な人権規範の視点からも、LGBTを含む様々な少数者の自由・人権・尊厳が保護されていない状況が憂慮されています。

 

本懇談会では、台湾での同性婚法制化に向けた取り組みとその後の活動について、また、日本における取組や社会の受容度についての発表を受け、参加国会議員とともに、日本でのLGBTの人々の権利を擁護する具体的な法律をどのように前進させることができるか、課題を共有し、市民社会と政治家の役割について忌憚のない意見交換がなされました。最後には、日本と台湾の市民社会が、インド太平洋地域の民主的リーダーとして今後も連帯してゆくことにより、共に政治と法整備を後押しすることができるとの認識が共有されました。

 

(*) LGBT:性的指向と性自認を表すLesbian(女性同性愛者)、Gay(男性同性愛者)、Bisexual(両性愛者)、Transgender(性自認と出生時の身体の性が一致しない人)の頭文字をとった略語。そのほか、Questioning、Intersex、Asexual、+(plus)なども、同様に性的指向や性自認において多様性を持つ他のアイデンティティを指すために使われる。

 

 

議論の要旨は以下の通りです。

 

 

議論の要旨

※本シリーズはチャタムハウスルールに則り開催した。以下は事務局がまとめたもので、参加者の総意として掲載するものではない。

 

当事者である市民活動家として、2019年の台湾での同性婚法制化に向けて尽力し、また、その後も引き続きLGBTの人々の自由・尊厳・人権が法のもとに保護されるよう活動中のJoyce Teng氏からは、自団体が行ってきた定性調査の結果や、近年の法律関連の動きと市民社会の取り組み、台湾社会がLGBTを支持する層が増えてきた変容について発表がされた。同氏らの調査によれば、同性婚法制化後の今も台湾社会の30%は反LGBT層で、その35%が情報量・アクセスが限られる高齢者層とのことで、同氏の団体では、高齢者や地方部の住民と直接対話を行い、LGBTも皆と同じく台湾社会の構成員であることを伝え理解を求める取り組みを継続していることが紹介された。

 

様々な人権問題に取り組む菅野志桜里弁護士の発表では、日本における市民や政治家による同性婚法制化に向けた諸活動が紹介された。一般社会のLGBT権利擁護に対する支持が向上しているとのデータ(2023年のメディアによる調査で日経は65%、朝日は72%、産経は60%が支持と回答)や、2019年2月からの一連の「結婚の自由をすべての人に」訴訟において、大阪地裁以外(札幌、東京、名古屋、福岡の各地裁)は、同性婚が認められていない現状を「違憲」と判断していることに触れ、司法判断に比して政治と立法が社会に追い付いていない実態が指摘された。

 

主な論点:

同性カップルの子育てと子ども自身の権利保護について: 

台湾も、同性婚法制化後の現在でも同性カップルが育てる子どもの共同親権は法制化されておらず、両親と子どもが法的な「家族」として認められない状況にあり、法制化に向けて働きかけているところである。子ども自身の権利として法的に保護することが重要。なお、現在の台湾では、養子縁組はカップルの一方とのみ可能。日本でも、同性婚法制化とともに本件について取り組みがなされている。

 

オンライン空間と市民社会の役割について: 

オンライン空間は、LGBTの人々が繋がるコミュニティ空間として機能する反面、攻撃や差別に晒されることもある。日本では、市民の多くがいわゆる『サイレントマジョリティー』とされるが、反LGBT層が実際にはマイノリティーだとしても、特にSNSでの展開によって声が盛大になれば、現在の小選挙区制下において政治家は意識せざるを得ない。市民社会側から、LGBT権利擁護の声が高まれば、政治家もサポートの声を上げやすくなり、立法面も加速されやすい側面がある。

 

情報提供と教育による理解促進に向けて: 

反対層の主張が事実や知識、また強い信念に基づいているのか、それとも無知や誤った知識に基づいているのかが重要。後者には対話や教育などを通じた情報提供を通じて理解を求めることが可能である。多様な性への理解を促進するためには、当事者ではない人に、何をどう知ってもらうかが問われる。幼少期からの教育と、統計やファクト、調査を通した継続的な啓蒙が重要で、それには市民社会の役割や力が求められる。

例として、日本と同様、台湾でも同性愛やトランスジェンダーは「治癒」可能な病気の一種と捉える傾向は強いが、精神科医らによるグローバル調査によって、性的指向や性自認は病気ではないことが示され、当事者をありのままに受け入れる土壌が社会的に整いつつあることが、ファクトの提供と対話が社会の理解促進につながったことが紹介された。

 

民主主義における少数者の権利擁護と多数決の原理について: 

反対派が多数だったとしても、少数の生きづらさや権利・尊厳について耳を傾け、すべての人の権利が擁護されるよう立法化してゆくことが民主主義と政治の役割である。強固な民主主義により、言論、集会、結社の自由が確保されることで、市民の声が立法化に繋がる。
この関連で、2024年の台湾総統選でLGBTがどの程度争点になるかという、質問が参加者から寄せられた。
Teng氏は、政治家が活発な政策議論をできる環境を作るためにも、性的少数者に対する社会全体の理解を深める必要があることを強調し、その例として、Teng氏の団体では立候補者に対してジェンダー平等推進への賛否などをめぐるアンケートを実施し、政治家に対する性的少数者への理解を促す取り組みを行っていることを紹介したほか、幼少期からのジェンダー教育を推進する一環として、学校の教師が利用できる教材も用意している。

 

台湾と日本の共通の価値観や市民社会の連帯について: 

「家族」の価値観を大切にするアジアの民主主義リーダー同士で、今後も連帯してゆくことができる。日本と台湾では法制化の進み具合は異なり、台湾の方が一歩先を進んでいるが、カミングアウトしている政治家の数は現在のところ(2023年11月現在)日本が台湾を上回っており、互いに学ぶところがある。

 

 

ゲストスピーカー

鄧 筑媛 (Joyce Teng)   台湾平等キャンペーン事務局長

菅野 志桜里      弁護士・一般社団法人国際人道プラットフォーム代表理事

 

モデレーター

矢吹 公敏        矢吹法律事務所弁護士;JCIE「民主主義の未来」プロジェクト 研究会メンバー;同プロジェクト インド太平洋プラットフォーム運営委員

 

 

本政策対話シリーズは、日本の外交政策や開発援助政策に、民主的ガバナンス―すなわち自由、説明責任、法の支配、個人の尊厳とエンパワメント等の価値に基づくガバナンス―をいかに組み込むかについて、喫緊の課題をテーマに日本の国会議員と海外の政策立案者、実務家、CSOリーダーの間での積極的かつ具体的な議論を促すことを目的に実施するものです。

 

 

関連情報

  • 第1回目 「人権と民主主義」 詳細はこちら
  • 第2回目 「インド太平洋地域の普遍的価値の擁護 -広島サミット後の日本の役割」 詳細はこちら
  • 当プロジェクトは、第1回懇談会の前日2023年3月28日に、公開シンポジウム「インド太平洋の普遍的価値の養護ーG7・日本の役割」を開催し、その議論を受けた提言書が同年4月3日に岸田総理大臣に提出されました。詳細はこちら

 

 


民主主義の未来プロジェクトの概要

冷戦終結により共産主義は自壊し、勝利した自由と民主主義が世界に拡散していくと信じられていました。ベルリンの壁崩壊から30年が経った今、世界各地では権威主義的統治手法が拡大し、先進民主国でさえポピュリズムの台頭でぐらつき始めています。今日の世界において、民主主義は顕著に後退していると言っても過言ではありません。

こうした問題意識を踏まえ、JCIEは、国際秩序と普遍的価値が現在どのような脅威にさらされているのかを理解し、日本としてどのような政策を展開できるのか検討する研究プロジェクト「民主主義の未来 -私たちの役割、日本の役割」を2018年に開始しました。

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