活動報告

6月11日(火)JAGntd(Japan Alliance on Global NTDs)およびSDGs・プロミス・ジャパンとの共催で、第3回グローバルヘルスに関する議員ブリーフィング「顧みられない熱帯病(NTDs)―― 今求められる日本の知見」を開催しました。講師には、JAGntd事務局長を務める平山謙二 長崎大学熱帯医学研究所宿主病態解析部門免疫遺伝学分野教授、大浦佳世理 公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHITファンド)CEO兼専務理事を招きました。

 

本事業は、地球規模課題としてのグローバルヘルスに対する日本の貢献を推進することを目的に実施される「グローバルヘルスと人間の安全保障」プログラムの一環として、昨年9月より開始しました。国境を超える感染症の脅威や、保健医療制度、保健財政などについて中堅・若手の国会議員を対象に定期的なブリーフィングを行い、世界の現状や日本の役割について理解を深め、将来的にリーダーシップを発揮していただくための機会を提供するものです。

 

第3回の実施報告は、以下の通りです。

なお、報告書全文と、講師略歴はPDFをダウンロードしてご覧頂けます。

報告書全文

講師略歴


 

開会挨拶(大河原昭夫 JCIE理事長)

モデレーターを務めた大河原は、NTDsの感染者が低・中所得国の貧困層を中心に10億人以上に上ると述べ、2014年にNTDsの一つであるデング熱が都内で発生したことは、日本人にとってもNTDsが身近な病気であると実感する出来事となった、と振り返った。また、2015年にノーベル医学・生理学賞を受賞された大村智 北里大学名誉教授が発見した抗生物質は、オンコセルカ症やフィラリア症といったNTDsの予防・治療薬としても広く活用されており、NTDsの取組みにおいては日本の技術や知見が益々期待される、と述べた。

 

 

顧みられない熱帯病(NTDs)とは (平山謙二 長崎大学教授)

NTDsは、感染者が貧困層に集中しているため製薬企業に利益が還元されにくく、また多くは致死率が決して高くないことから、世界では十分な取り組みがなされてこなかった経緯がある。

かつて日本でも、NTDs のひとつである住血吸虫症が大流行したことがある。そして日本人が世界で初めて、日本住血吸虫とそのライフサイクルを解明し、撲滅させた。その背景にあるのは地域住民や行政が一体となって、コミュニティの意識改革と協力体制の整備に取り組んだことに他ならない。この経験は、世界の NTDs 対策に大いに生かされると述べた。

 

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顧みられない疾患である所以

  • NTDsの感染は、公衆衛生的な対策によって制御できる。しかし、その多くは致死率が決して高くないことや、感染者が貧困層に集中しているため、薬剤開発に取り組む民間企業に利益が還元されにくいことなどを背景に、世界では、これまでNTDsに対する取組みが十分になされてこなかった。NTDsが慢性化することによって、大きな社会・経済的損失をもたらし、さらなる貧困化を招く。まさに、貧困に関連する病と言える。
  • 2007年、NTDs対策に取り組むべきとする決議が世界保健総会で採択され、世界的に深刻な問題であることが改めて定義された。さらに2012年、多国籍製薬企業や民間財団、世界銀行などが集まり、2020年までに10疾患を制圧することを掲げた「ロンドン宣言」が採択された。しかし現状はかなり厳しく、現在「ポスト・ロンドン宣言」を準備中である。
  • 20あるNTDsの患者数は世界で10億人に上り、エイズや結核、マラリアなどの世界三大感染症と合わせて、貧困層に多くの犠牲を生んでいる。 

 

 

「橋本イニシアティブ」の背景にある日本の歴史

  • NTDsの分野で日本が最初にとったリーダーシップは、1997年、橋本龍太郎総理によって提唱された「橋本イニシアティブ」である。その背景には、日本がNCDsの一つである住血吸虫症の対策に長きにわたって取り組んできた歴史があった。
  • 住血吸虫症は、雄雌の寄生虫が抱合しながら人間の血管内に寄生し、毎日数千個の卵を産む疾患で、致死的な病気ではないものの慢性的に進行し、最終的には肝硬変や膀胱がんなどの疾患に至る恐ろしい病である。現在、世界では主に3種類の住血吸虫症が流行し、感染者は2億人以上に上る。このうち、日本住血吸虫症は動物にも感染するため、人間の感染対策のみでは撲滅に結びつかない。公衆衛生的な制御策を以て、解決させる必要がある。

 

世界で初めてとなる日本住血吸虫症の感染サイクルの発見

  • 日本各地でもかつて流行地が存在し、特に福岡県久留米の筑後川周辺や、広島・岡山の片山地方、山梨の甲府盆地、利根川流域には多くの患者が存在した。
  • 1904年、藤浪鑑、桂田富士郎、宮入慶之輔の3名によって、世界で初めて日本住血吸虫症の感染サイクルが発見された。特に、日本住血吸虫の中間宿主であるミヤイリガイの発見は、その後の対策に大きく貢献することとなった。
  • その後、自治体による貝の買い取り等様々な施策の後押しもあり、住民総出で殺貝が行われ、高い効果が認められた。さらに、1985年頃まで灌漑用水路のコンクリート化が推進された。同時に、健康増進事業による住民の意識変革も行われ、地域が一体となって対策に取り組んだ。1975年、特効薬となる「プラジカンテル」が開発されたが、実は日本ではそれ以前に住血吸虫症をほぼ撲滅させていたことがわかっている。

 

 

世界のNTDs撲滅に向けて生かされる日本の経験

  • 行政や地域住民、学術・教育機関、医療機関などが、コミュニティの意識改革と協力体制の整備に多角的に取り組んだことが、世界初となる日本の住血吸虫症撲滅宣言へと導いた。
  • 諸外国では、感染後の集団治療が主な戦略となっており、日本ほど住民の意識改革を通じた予防に取り組んだ例は他にない。
  • 日本の経験は世界のNTDs撲滅に必ずや生かされると考えており、現在、長崎大学ではケニアのビクトリア湖周辺で、日本の経験を生かした住血吸虫症の対策を進めている。

 

 

R&D分野での日本のイニシアティブ―公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHITファンド)の取り組み (大浦佳世理 GHITファンドCEO兼専務理事)

顧みられない患者のために、日本の技術と知見を活用した新薬開発を支援する官民ファンドーGHITファンドの大浦CEOからは、現在 NTDs の 2 つの治療薬が後期臨床試験段階にあり、数年内の薬事承認取得を目指していると報告があり、治療薬開発の重要性について説明があった。

 

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GHITファンドのミッション

  • GHITファンドは、日本の製薬業界による声がきっかけとなり、政府や民間財団等による協力で設立されたユニークな組織である。日本政府が半分、製薬企業やビル&メリンダ・ゲイツ財団、ウェルカム・トラストが半分を出資している国際的な官民パートナーシップである。
  • 顧みられない患者のため、日本の技術とイノベーションでグローバルヘルスに貢献する、というミッションを掲げている。

 

 

NTDsへの取組みにおけるGHITファンドの実績

  • 現在、世界で1億人が罹患するがんに対しては、その新薬開発に5兆円が投資される一方で、患者が10億人以上に上るNTDsに対しては1000億円も投資されていない。NTDsの新薬開発は投資対効果が低いため、民間企業が投資を続けていくことが困難である。
  • そこで、GHITファンドがNTDsの新薬開発に投資することにより、企業やパートナー、アカデミアが研究開発を進めて製品化させ、患者に必要なワクチンや診断・治療薬を供給することができるようになる。GHITファンドは2013年の設立以来、累積投資額170億円のうち約80億円(47.3%)をNTDsに投資してきた。

 

 

日本の技術を用いた製品開発

  • 現在、GHITファンドが投資している全ての研究開発の中で、薬事承認取得にもっとも近い3製品のうち2つがNTDsの治療薬である。
  • 一つは、住血吸虫症の小児用治療薬「PZQ(プラジカンテル)」である。通常、住血吸虫症の薬剤は成人用で錠剤が大きく、小児が服用する際には小さく砕いて内服されており、想定される効用とは異なっていたため、小児でも内服できる薬剤の開発が求められた。そこで8団体による合同開発の下、アステラス製薬の技術を用いて、小さく、苦みの少ない、水なしでも溶けやすい錠剤を開発した。2019年4月から、最終段階となる第III相試験に入っている。
  • もう一つは、エーザイとDNDi(Drugs for Neglected Diseases initiative:顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ)が共同開発を進めるマイセトーマの治療薬「E1224(ホスラブコナゾール)」である。

 

必要とする患者の手に届いてこそ発揮される価値

  • さらに、どんなに優れた製品を開発しても、実際に患者の手に届かなければ意味がなく、アクセス改善にも取り組まなければいけない。臨床試験の段階から、開発パートナーと相談しながらアクセス戦略を立て、国内外の機関との連携を視野に入れ製品開発を進めている。
  • 組織同士を繋ぐことはGHITファンドの強みであり、今後はR&Dとアクセスを繋ぐ効果的なプラットフォーム「Uniting Efforts for Innovation, Access & Delivery」においても、アクセスの改善に向けて関係機関との対話を促進する。

 

討議

その後の討議では、出席した議員から「住血吸虫症を世界で初めて撲滅させた日本だからこそ、世界に向けて発信できる強みがあることを実感」、「日本にはこういった感染症や、さらに公害などと闘ってきた歴史もあり、国内で世代を超えて語り継いでいくとともに、国外に向けて打ち出していかなければならない」といったコメントが共有された。

スーダンで医療活動を展開している川原尚行 ロシナンテス理事長からは、アフリカ土着の薬草を活用した漢方製剤の普及や、現地のキャパシティに合った対策の推進の必要性が指摘された。

また、2020年までに10のNTDsの制圧を掲げるロンドン宣言の達成は厳しく、ポスト・ロンドン宣言の採択に向けては、採択を主導するWHOを後押しする形で日本がリーダーシップを発揮することが求められる、と議論された。さらに、NTDsへの取組みを通じて日本のSDGs3に貢献する取組みを具体的に世界に向けて発信できることが確認された。

 

閉会挨拶 (鈴木りえこ 特定非営利活動法人 SDGs・プロミス・ジャパン理事長)

閉会挨拶を述べた鈴木理事長は、誰一人取り残さない社会の実現のために、NTDs制圧を通じたユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)達成が不可欠であることを強調した。また、2020年には日本でオリンピック・パラリンピックの開催が予定されており、来日する外国人が増えることによって、デング熱をはじめとする感染症の蔓延が危惧される。ポスト・ロンドン宣言に向けた日本のリーダーシップが求められる、と述べた。

 

 

[出席議員]

   自由民主党 小倉 將信         衆議院議員
     田畑 裕明   衆議院議員
     牧島 かれん  衆議院議員
 秘書代理出席
 
   自由民主党 安藤 高夫   衆議院議員
  国光 あやの      衆議院議員
    石田 昌宏         参議院議員

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(所属はブリーフィング実施時・敬略称)

 

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